――それはカサネが夕食を獲りに行っている間に、アウインが放った一言が切欠だった。


「我が君はどうして、単独なのでしょう？」


　不思議そうに首を傾げる一角蛇に、双頭の獣は顔を見合わせた。


「どしたの、急に？」

「いえ…ちょっと気になって」


　年若い一角蛇は言う…自分の主君が人間であるのなら、群れでは暮らさないのかと。
　確かに人間の多くは群れを作り、集団で生活をしている。
　一揆の参加者達も数人でPTを組んで行動する者が大半だから、自分達の主のように単独行動を取るのは確かに少数派だろう。
　まして、人里に寄り付きもしないレベルで人を避けている者はそういない。
　ヒトは群れる生き物という認識があったアウインには、どうもそれが疑問であるようだ。


「群れで暮らす生き物っても、千差万別あるさネ。特に、人間は種族の幅がバカみたいに広いからねェ…」

「中には、群れに馴染めぬ者も出る」


　単独で暮らすパロロコンには分かりづらいのだろうが、群れで暮らす生き物は異質な者を嫌うものだ。
　そして自分達の主であるカサネは、元の世界では異質なものとしてつまはじきに遭っていたらしい。
　そのことは、カサネが人見知りというよりは人間を恐れている様子からも窺い知ることができる。

　年若く、エンブリオとしての契約はカサネが初だというアウインは気付いていないようだが、彼は誰かと対峙する時、必ず息を潜めて相手の挙動を伺っているのだ。
　それは獣や魔物と対峙するよりも人間相手の方が顕著で、対峙した側も見る者が見ていれば分かるだろう。
　わずかに交流がある者達は、気付いていてあえてそのまま好きにさせている者もいれば、アウイン同様全く気付いていない者もいる。
　いずれにしろ、その者達はカサネの警戒心を気にする様子もなく、ごくごく普通に接してくれている。
　そのためか、主の態度は彼・彼女らに対してだけは大分と軟化しているようだ。


「まぁ、仲良し小好しをする必要はないけど、確かに主殿のアレはちょっと行き過ぎかもねェ…」

「うむ…生活に支障が出るレベルだからな…警戒心を抱かずとも良いと認識した者としか関わろうとしないのは…」

「ですが、主の性質である以上、我々が口を出すのも…」

「ソコなんだよねェ…」

「難しいところではあるな…」


　群れで暮らす生き物は、群れで暮らさなければ学べないことがいくつもある。
　自分達エンブリオは主に添う存在ではあるけれど、けして同じ生き物にはなれない。
　主の群れの一員になってやることはできないのだ。


「怖がるのを無理やり引っ張っていくのは逆効果だろうしネー…」

「今の友人達を切欠にして、少しは人馴れすればよいのだが…」

「いずれにしても、時間がかかりそうですね…」










――そうして悩ましく溜息を吐くエンブリオ達が『主の人馴れ計画』なるものを真剣に話し合っていたことなど、


　　　 もちろんカサネは一切知る由はなかった。



　

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