城は広大だった。歩いても先の見えない程の長い廊下をゆく。足が地からどれほど離れたとしても。この床下に大きな空間の眠る、けれど視界はいつも同じ闇を呈している。オルガの姿は見えない、先にひとつ下の階下の様子を探りに降りたばかりだ。遠く遠く、幾つもの辻をこえて、その二枚ずつの壁に反響させながらオルガの意志――炎の音が微かに響いている。眩暈がしそうだ、その音を少しばかり呑み込みながら彼女の頭骨の中で少しばかり疲労が滲んだ息が返る。飽くなき旅ではなく――、果ての見えない
この籠は、籠であって、彼女の知る籠とは似てもつかない。どこへもゆけるのに、どこにもいけないのだと暗く緞帳を下すこの、浸食するような闇は。

後を追って下りる階段にエスコートするものは誰もいない。落ちたあかり、ヒールの先を柔らかく受け止める褪せた絨毯の感触、薄く塗装の禿げた金の鈍い手摺。彼女の城、――かつて在り、今はもうどこにもないその場所とは似ることのない。瞼を閉じて思い描く世界がある。随分とその闇にぼんやりと浮かぶ金と白の世界を思い起こすことも多くなったと思う。からだがここにあり、心が開かれるのはいつのことだろうか。胸の奥で波が静かに返している。寄せて、そうしてまた返す。繰り返すルフラン、戻りくるワルツ。階段のふもとに、枯れた花が擲たれていた。枯れた花は嫌いだ。醜いと思う、醜いものを好きになる道理はなかった。枯れた花。それもまた、この世界に来てはじめて見たように思う、鳥籠の世界にはけして必要のないそれを。花だ、と彼女の唇に艶が乗る。そう、花を久しぶりに抱き留めたいと、そのうずもれる程の香りの中に。花。花……

　　　　　　　背負った竹を肩越しに抜いた