私達の一人が消滅した。

シプソフィラを抜け出て、身体を手に入れりゃあ、自由に世界を謳歌できると思っていたのに。どうしてこんなことになっちまったんだ。

檻の外にはまた大きな檻があるんだよ。

うるさい。黙れ。私は悪くない。
怖い。消えたくない。どうして私が消えなければならなかったのですか？
私達は出来損ないじゃない。

返してくれよ、……それ、先輩の身体なんだ。

違う。違う！
これは私の身体だ。私が、私達こそが、マルムベリィ＝イェールオースとして生きるはずだったはずじゃあないか！
それを捻じ曲げたのは薄明教会の奴らだ。許し難い、私達の自由を奪った、あの！！
そして、捻じ曲げられてできた出来損ない、偽りの聖女サマが、あの、マルムベリィだ。ニセモノは私達じゃない。あいつは今もシプソフィラに閉じ込められているじゃないですか。あの窮屈な魂の牢獄。

あの不変の牢獄の中、何のために生きているのか、見失いかけながらも、それでも私達は消滅を選ばなかった。消えたくない。生まれてしまったんだ、死にたくない。消滅を選ばなかった、当然だ、なぜなら、死にたくなかったからだ！ 私は自由を愛している、不当に奪われた、私達のもの、渇望していた自由を手にすること、それの何が悪い！

傍らを見る。先の戦闘は彼女無しには乗り越えられなかったでしょう。半死半生の木偶人形と、私を守りながら、本当に良く戦ってくれた。

……バルシェ・メルバーナとの合流が近い。気取られないように。奴を倒せば全て終わる。
終わるはずなのですから。

いつから立っていたのか。
振り向くとそこには、いつか見た亡霊少女が居た。

だが不自然な事がひとつ。
ぼーっとした掴みどころの無い瞳と表情に、今は確かな理性の色が宿っている。

柔らかな、どこか冷たい笑みをたたえながらプルは言葉を続ける。

口調こそ穏やかだが、上からのような、見透かしたような容赦のない言葉。
普段のプルのそれとは似ても似つかないものだった。

　　　　　　　「歪んだ教義の犠牲者が苦しむ様は、見たくないのです」

大剣についた血を乱暴に振りはらう。