リナ達は、先日山の頂上付近で見つけた、小さな屋敷の立ち入り調査を試みる事にした。
屋敷の中は外観以上に古びており、内部の崩落により、通れる箇所も限られていた。
仲間を見失わぬよう、声を掛け合いながら、中を調べていく。

「…リナさん…ここ、調べて、何かあるんでしょうか…？
…お化けとか出てきそうで…ちょっと、怖いです…」

エスカーラがびくびくしながら言う。フロルが、呆れたように息をつく。

「『お化け』なんてのに怖気づくんじゃないよ、それでもあんたエンブリオの端くれかい？

ま、こんな辺鄙の廃墟を調べたところで意味があるように見えないってのは、あたしも同感だけどね。
………『お化け』なんてよく分からないものよりよっぽど性質の悪い、エンブリオの気配に満ち満ちてやがるしさ」

それでも意義があるのかと問うフロルに、リナは返した。

「そうね、辺鄙ね。
…でも、王城内の、こんな辺鄙な場所に屋敷なんて建てられるとしたら、それこそ王室関係者だけよね？
じゃあ、王室関係者は何でこんな辺鄙な場所に、ささやかとはいえこんなお屋敷建てたと思う？」

質問に質問で返された上、その意図が読めないフロルは黙り込む。代わりに答えたのは、イーラの能天気な声だった。

「腐敗した政治に嫌気がさしたときにくつろぐための離れ！」

「………無駄に生々しいわね、あなた」

微妙な表情を浮かべるリナ。ここで、ルシェーナが口を開いた。

「………しかし、随分と古いですね。建てられてから、一体何年経っているのか………」

「そこよ」

ようやく、我が意を得たりと言わんばかりにリナが拳を作る。

「この建物の状況から見て、こんな場所が新王が王位に就く以前に建てられたものである事と、新王がろくに手を入れてない事は間違いないわ。
それに、ここに屋敷を立てられる人の立場を考えると…ここには、新王以前の治世の情報が眠っている可能性が高いと思うの。
…その中に、今の状況に繋がるようなネタが眠ってないとも言い切れないでしょ？

こんな場所にあるから、ここを調査出来る人間は少ないわ。私達程度でも、足しにはなるはずよ」

調査の意義を判定する事自体に意味があるのだと言わんばかりに、リナがおもむろに捜索を開始しようとしたところで…ヒトではなく、味方ではないもの達の忍び寄る音が、周囲を囲むかのように近づいてきた。

「ちぃっ、確認の声に引き寄せられてきやがったみたいだね…！」

フロルが忌々しげに舌打ちをする。

「近づいてくる数が結構多そうね…力押しで乗り切るわよ！」

リナは既に心を決めたようで、臨戦態勢に入りつつある。

「………リナさんが「力押し」の魔法を使って…ここ、大丈夫なんでしょうか………」

エスカーラの気弱な呟きは、戦闘開始の混沌の中に飲み込まれていった。

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した

何かに変身した