――押し付けられた物を懐へと押し込んで、ブルートは振り返る。


「邪魔者も居なくなった様だし……行こうか」

そう言って差し伸べる彼の腕は、無機質で熱を持たない。
そして、その手を取る妻の細い左手も……無機質だ。

２人は人間では無かった。
……否、“人間では無くなった”のだ。

しかし、そんな事は２人には関係の無いことだった。
だって愛する人と一緒に居られるのなら、
他に欲しいものなんて何も無いのだから。



少し歩いた所で辿り着いた庭園に、妻は瞳を輝かせた。
彼女は生前から、花や美しい物を愛していた。

「……綺麗ね」

飴色のしなやかな髪を揺らして、微笑む。
そんな妻の嬉しそうな横顔を見てブルートもまた、
仮面の奥にある目を細める。

「そうだね。……此処で少し休憩しようか」


ひらひらと踊る蝶の群れを横目に、
２人は幸せなひと時を過ごす……。


　　

素っ頓狂な声の主は、頭の周りに花でも飛ばしていそうな桃色の髪の少女だった。
興味津々といった様子で、二人を見上げている。

その後ろから、派手な帽子の若い男が現れる。
何処か胡散臭いその男は、帽子を取って軽く会釈などしながら、さきの少女の隣に立った。

自称座長の男は夫妻の腕をしげしげと眺め、改めて感心したように頷いた。

少女は自分の話をされていることなど全く気に留めていない様子で、くるくると座長の周りを回っている。
なるほどその両脚は、茨のような形状をした真鍮色の義足だった。