■城内：兵舎にて

「…サクロ、それは何を？」
「んぁ？」
　城内をゆく途中。
　休憩時間、座り込み手元を広げる私に、ユーグの声が降ってくる。
　周辺の確認をさっさと終えて戻ったのだろう。
「あぁ、…修復の続きか」
　そっと目線を外した様子は、つまらないことを聞いて興味が失せたようにも見えたし、見たくないものを見たと眉を顰めたようにも見えた。

「これは人形とちゃうぞ。これはお前さんのや。小鳥につけても構わんが、…いや、ちゃうか、ユーグのやな」
　殴りつけた分、慰めようというつもりはなかったが、いつまでも同じ態度を引きずるものでもない。
　軽く笑って見せる、私にさほどの気遣いという気はないのだが。
　…だが、作っているものに、そんな意図はないといっても信じない、かもしれない。
「ふむ。楽しみにしていよう」
　穏やかな様子で肩をすくめる、それはいつも通りに見える。
　繕っているだけか否か、私はそっと陰で右手を握り、開きを繰り返し。
　許された時間の中、作業に戻った。

　過ぎた思い入れは、害毒にしかならないだろうけども。
　羽根を休める、そんな枝葉を一本譲るだけだ。
　花屋敷の大樹を思えば、こんなものはささやかな洒落の範疇と見てくれるだろう。