『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.20.13:18、とある戦場にて――


　疑似的感情を切る。それは人間の形をした機械の兵器に戻るということだ。
戦闘の間は与えられた命令を淡々とこなせるので、余計な思考に流されずに済む。
　だが、俺のマスター……ショウ＝ツルギノは、俺が感情を断つことを
一切許可しようとしなかった。命令があるまで禁止されてしまった。
理由は判らない。彼は余計なことは口にしないからだ。


　敵……蜘蛛のような節足を持った大きな生物は飛びかかってきた。
熱源を感知していたものの間一髪で敵の攻撃をかわした。
敵の足の先端にある爪が鎌のように閃き、大地を大きく抉った。
「いや〜ん！　ボク、飛ばされる〜！」
「ぽち！？」
　ぽちが妙な声を上げながらすっ飛んでいった。敵の頭部から生えた
触覚ようなものに当たったのだ。ぽちはすっ飛んで姿が見えなくなった。
　ぽちの状態と行方が気になるが、敵はそれを許さない。見かけによらず、
機敏に動く敵はすぐさま体勢を立て直し、俺に襲いかかってきた。
「こいつ、早い！」
　俺は次々と振り下ろされる爪の一撃を躱すのに精一杯だった。
　このままでは反撃する機会がない。人間のように疲労することはないが、
エネルギーに限りがある。活動可能時間までに余裕はあるだろうが、
活動不能になる前に仕留めねばならない。
　何か糸口はないものか。
　焦る一方で、特定の通信を受信する。ぽちの状況報告だった。
どうやら無事で無傷らしいが、俺はそれどころではない。俺を獲物と
捉えた敵は執拗に襲いかかってくる。
　それよりも、マスターの方は大丈夫なのだろうか。遠くで
銃声が聞こえるから、マスターも戦闘に入ったのだろう。
彼の銃は実弾ではないから、数発で弾切れする心配はないだろうが、
マスターと距離が離れるにつれ、人間で言う不安というものになる。
そう、今まさに距離が離れているのだ。
「くそっ！　こいつの相手をしている場合じゃない！」
　早くマスターの元へ向かわなければならない。

　『人間で勝てないなら、人間を捨てればいい。何故に人間に拘るのだ』

　焦りが募る中、俺の記憶を誰かの言葉が過ぎった。

　『俺は人間を捨てることにした。お前も……』

　よく判らない感情が沸き上がる中、誰かの言葉が続けられる。

　『一緒に人間を捨てないか』

　橙色の光と熱気で噎せ返る場所で、そいつが俺に手を差し伸べた。

遠くから騒がしい声が聞こえてきた。
そしてその声は徐々に近づいてくる。

…と思た矢先に少年は転倒、派手に水しぶきを上げて川に沈んでいった。