※今回の日記は時系列を完全無視しております。

「――困ったわね。」
食材を見ながら私は考えていた。
作るものは決めている。
だが……
食材が致命的に足りていない。
そう、足りていないのだ。
別に足りていなくても問題はない。
それでも作れなくはないのだが……
折角食べたい物の希望を出されたのだから、
出来うる限り万全にしたい。
それにしても――
「……新年に相応しい料理とは想定外ね。
　私の世界だと新年までまだ相当先だし……
　こういう事なら本当に用意しとけばよかったわ。」
どうして急に、
魅月の世界の新年の御馳走が食べたい……
そんな事をエモさんは言い出したのだろうか。
多分思いつきなのかもしれないが……
そういえば、
先日こちらではクリスマスイベントをやっていた事を考えてみると、
――どうやらこちらと私の居た世界では単純に時空が歪んでいるだけらしい。
そう諦めてため息を吐く。
まぁ、決まった事なのだから、
全力を尽くすまで。
とすると……
「やっぱり足りないのよね……
　ちゃんと買ってこれるかしら？」
やはり問題なのは、
一番肝心の食材。
それ以外の食材に関しては、
アルネスさんやペルチェさんが用意してくれている。
既にある食材や、代用品とかも使えばなんとかなるとは思う。
だが……
エモさんに頼んだお餅だけはそうはいかない。
やはりお餅は餅であった方がいい。
だが――
エモさんの場合、
餅をこちらにもってくる前に、
物珍しさで食べてしまうかもしれない。
――それが一番の懸念である。
「……まぁ、大丈夫よね……」
不安は隠せない。
基本的に素直でいう事は良く聞く。
そこに食べ物が関わらなければ。
食べ物が関わっていたとしても、
自分が食べれるなら問題ない、問題ないはず。
なのに不安は晴れない。
「――あ。」
そこでふと思い出す。
そう。
自分がまだ一つだけ決めていなかった事を。
「――どんなお雑煮にすればいいのかしら？」
自分が知っているだけで、
大量にある雑煮のレシピ。
その中から自分が選ばなければならない事を。
そして――
「……待たせたら怒るわよね……」
待たせた時のエモさんが拗ねる事を考えて、
小さく笑い、
どうにか拗ねさせないよう頑張らないといけないわね、
と、どんな御節と雑煮を作るのか考えを巡らせた。

「それで結局……」
「シンプルにしてみたわ。
　最後まで白味噌仕立ての雑煮にするか、
　澄まし汁にするか迷ったんだけど、
　白味噌が多分無いだろうと思ったので、
　澄まし汁仕立ての雑煮に。
　餅を使わない雑煮とかもあるけど、
　やはりお餅使った食べて貰いたかったのよ。
　正月用の料理なんだし。
　御節の方は、
　祝い肴・焼き肴・酢の物・煮物で、
　縁起ものね。
　皆が集めてくれた物で出来る限りを。
　で、御屠蘇といわれる縁起物のお酒を飲む。
　ま、この１年、
　つつがなく過ごせるようにという料理なんだけど……
　アルネスさん食べなくていいの？」
「え？」
――料理を作って新年を祝い、
いざ食べてみようとなった矢先、
アルネスさんが私に大変だったんじゃない？
と聞いて来たので、
適当に自分の食べる分をつつきながら、
集めて来た皆の方が大変だったと思うけどと前置きを置いて、
自分が何に苦労したのかを語って……
といっても、
８割くらいエモさんがキチンと餅を買ってこれるかという所だが――
まぁ、それはいい。
語りながら、
真剣に私の話を聞いて箸の手を止めているアルネスさんに指摘する。
そう。
もしも、私とアルネスさんの食事ならば……
そのままでもなんら問題はない。
だが――
「むぐむぐ。」
この料理は元よりエモさんの為に作られたものといって過言ではない。
そして――
御馳走を前に長時間待てるほど、
エモさんは食べ物に対し我慢強くはない。
よって。
私とアルネスさんが話ている間に、
猛然とした勢いで作られた料理を平らげ、
無くなったら自分達の分も食べられる事も想像に難くなく、
事実そうである。
私に関しては、
それが分かっていたので、
自分が欲しい分を確保し、
適当につまんでいた訳だが、
当然私との話に熱中していたアルネスさんは何も確保しておらず、
食べてもいない。
当然のごとく、
アルネスさんの食べる分は、
今こうして私と向き合っている間にも、
刻一刻と減っていく。
「……ぶっちゃけ、
　ここにある料理食べ終わったらまたとって来てもらう事になるけど。」
言外にアルネスさんへと、
ここにあるので全部よと告げる。
それで、アルネスさんもやっと状況に気付いたようだ。
「ちょ、このままだと私ご飯抜き！？」
「新年そうそう残念な結末ね。
　……おみくじの結果はみるまでもなさそうだし。
　……凶、でいいわよね？
　アルネスさんのおみくじ。」
「酷い！？
　って、エモさんそれ以上ダメぇぇぇぇぇ！？
　そのお雑煮私のだから！
　せめてそれだけでも残してェェェ！？」
慌ててエモさんへの対処に向かうアルネスさんを、

やれやれと、御屠蘇を飲みながら傍観しながら、
ペルチェさんを手元へと引き寄せる。
「新年になっても私達の関係は変わら無さそうね。
　良い事なのか悪い事なのか。
　ま、これからもよろしくね。
　ペルチェさん。」
「いいことだといいなとおもうウサ。
　こちらこそこれからもよろしくウサ〜♪」
――少なくとも、
まだまだこれからも楽しい日々が続く事は間違いなく、
私を飽きさせてくれないらしい。

楽しい新年を迎える食事も済んで、
後片付けも終えた私は、
皆から離れ、
一人丘の上から夜空を見上げていた。
満天の星空をぼんやりを見ながら、
昔の事を思い出す。
昔と今。
姿は変わらないけれど、
考え方は随分と変わってしまったように思う。
長い年月を生きてきたのだから、
数多の事を経験し、
人でならざるものと在り続けた私は、
最早、“人”ではない。
けれども、私は人であろうとし続ける。
人である事を忘れた時。
それは、
この私という存在が本当に消えてしまうその時なのだから。
「――」
もちろん、そんな事はない。
例え完全に人を辞めてしまっても、
私は私で在り続けるに違いない。
――少なくとも、
私の友人のおかしてはならない領域に踏み入らない限り、
私が友人の友人であり続ける限り、
友人達も私は私だといって付き合ってくれるとは思う。
けれども、
私の方はそうではない。
私は人であろうとするからこそ、
他者に対して寄り添う事が出来る。
“バケモノ”でしかなくなった私は、
きっと、周囲を死へと引きずり込むだけの存在となるだろう。
私の“人”と“バケモノ”の境界は、
“生”と“死”の境界のそれだ。
“死”に生きるものが、
他者を欲する時、
それがもし、生者であるならば、
寄り添うだけであればいい。
だが、それは時として、
死へと引きずり込む事に他ならない。
“死”に生きる者は、
“生”の世界にただの生者として生きる事は、
誰かの犠牲をもってか、
それとも、
人知を超えた何がしかの力をもってしか不可能であるのだから。
だからこそ、私は人で在りつづけようとする。
自分が人である事を忘れない限り、
私は誰が何と言おうと人であり、
“バケモノ”足り得ないのだから。
だからこそ、幸せになってもいい。
どんな罪も、
どんな不幸も、
その上に私は立っている。
それを忘れずに抱えているからこそ、
幸せであってもいいのだと思う。
今を私は生きているのだから。
冷たい夜風が私の髪を撫で、
空に浮かぶ月が私を照らす。
「――ふふ……」
なんだか妙に可笑しくなって笑いが漏れる。
こんな益体も無い事を考えていた時に、
風が吹くだなんてまるで舞台をあつらえたよう。
――月は夜空に浮かび、
まるで生と死を繰り返すようにうつろって行くも、
その本質は何ら変わらず、
死たる夜に浮かび輝く。
魅月という名前は、
そんな月に魅入られ、
月を魅入られるようにという事。
月のように美しくという願いと共に、
月のようにどんな事があっても輝くように強くあるようにと願いつけられた。
伊賦夜という名字は、
黄泉比良坂、黄泉の国に通ずる意味がある。
だとすれば、
月も黄泉比良坂も共に境界。
まるで定められ、
あつらえられたかのような名前ではないか。
勿論、
定めでもあつらえられた訳ではない。
けれどもなんとも相応しい。
私が私である限り、
私はこの名前で在り続ける。
全くもって、神というのは皮肉なもの。
神は人にあらざるものであるが故に、
神は人というものを見ていない。
人が人以外のものを見ていながらも、
基本的に無関心であるように。
時にはなんらかの感情や行為を起こす事もあるだろう。
それは気まぐれであったり、
生涯に深くかかわる事であったり、
千差万別。
神が人に向ける行為もそんなもの。
そこに相手がこちらに向ける感情など、
気にする事は基本的にない。
きっと、こうして抗っている事さえも、
神の掌の上で、
神を楽しませる為に踊っている事に他ならない。
“生贄”として死ななかった今もなお、
私は“生贄”である事に変わりない。
ただ、
“生贄”として求められる事が変わったに過ぎない。
其の為に生かされ続けている身体は、
その神が滅びでもしない限り、
完全なる死を賜る事はないだろう。
――過去に死を求め続けた時、
その方法は見つからなかった。
無論、可能性はゼロではない。
けれど――
最早、私がそれを選ばない以上、
可能性はゼロでしかない。
ただし殺す事は簡単だ。
今の私という存在そのものであるその精神を殺せば良い。
私が“バケモノ”へと落ちれば、
確かに私は殺された事に他ならないし、
それはまた私を死なせる事に他ならないだろう。
だが、
私が望むのは“人”としての死。
ならば、
例え何を犠牲にしてでもそれは許さないし、
避けたいと思う。
だからこそ――
「もっと、強くならないといけないわね……」
まだ、私は弱い。
弱すぎる。
己の心が弱いだけならそれは良い。
己で鍛えつづけるしかないし、
それは未熟の現れであるから。
だが、それ以上に私の心が弱いのは、
私の心を保ってくれる絆というべきもの。
様々な世界を渡り、
様々な絆を育んできたが、
その絆の一つ一つもまた、
私の心の強さである。
――死のうとしていた時のツケといわれれば仕方ない。
その通りだし、
今、そのツケを払わされているともいえる。
強くならなくては、
今はいい。
今はまだ、そこまで大きな時を重ねてはいない。
問題は……これから過ごすであろう長い時をどう生きるか。
時間はたっぷりある。
だが、心せねばならない。
強くなる為に。
強さを皆から分けて貰う為に。
自らの成長と、
人との繋がりを大切にしなければならない事を。
「――ま、なるようにしかならないのだけどね。」
月へと手を伸ばす。
なんとなく、
今なら月にも手が届きそう。
そんな風に感じられたから。
――手は月には届かず、
虚空を掴む。
当たり前だ、
月はあんなに大きく見えていても、
月は遠くにある。
手を伸ばした程度で月を掴む事なんて出来はしない。
けれど、
私は確かに月を掴んだ。
月そのものではない。
今まで絶対に届かないと思っていたことに、
今はもう手が届くのだと、
そういう想いを込めて伸ばした手。
月には届かない。
でも、届いた。
そして掴んだ。
月へとかけた願いは確かにこの手の中にある。
それはまだ始まったばかりなのかもしれない。
けれども、
それは実現可能な願いとして手の中に。
後は、己に恥じぬよう突き進み、
一度つかんだ願いを決して離さぬよう、
慢心せず、
誠実に、
着実に、
一歩ずつ歩んで行くだけ。
単純にして明快。
簡単そうな話に見えるが、
簡単こそが一番難しく、
単純であるが故に見落としてしまう。
だが、
ここまで私は歩いて来た。
――今更、私にそんなミスをするつもりは……無い。
これは慢心ではなく……
覚悟、だ。
もちろん、完全にミスをなくすことなんて出来はしない。
けれども、
それを正す事はきっと出来る。
だから大丈夫。
私が……きちんと前と周囲を見ている限り。
そして、
一人で全部しようと背負い込まない限り。
助けてくれる人が居る。
支えてくれる人が居る。
「後は……
　私次第、ね。」
そう。
後は私次第。
終わらない世界をずっと私として歩み続けれるのか、
それとも道半ばで潰えるか。
「――さ、神様……勝負よ。
　私は私の道を歩み続けれる方に賭けるわ。
　私は一人じゃないのだから。
　――これが私の貴方に対する抵抗。
　ささやかな抵抗。
　だけど、勝ったその時は、
　精々笑ってあげる。
　――あり得るはずのない貴方の敗北を。」
――首を洗って待っていなさい。
私を呪い、
私を何処かで見て笑いながら楽しんでいる神様。
人間の強さを教えてあげる。

この世界に囚われているかどうかは解らんが。
飼い主の得体の知れない力--それが契約の効力なのか、魅了の力なのか、全く別の能力に依るものなのかは知らんけど--には囚われている自覚、薄々ながらも有り。
でなけりゃ初っ端の時点で逃げてる。姫さんが囲みの軍勢を下がらせた瞬間に逃げてる。

懐く原因が術がらみ以外に思い当たらないので、態度は迷惑している風を装っているが。
実はめっちゃ姫さんに懐いてるぞこの蜘蛛。

魅月さんを覚えてなくても、朔位の事は他人事程度に覚えてる。
魅月さん関連は一般情報すら思い出せないのに。思い出す気配も無いのに。

ねこねこ

最近の経験で、一度喋るの聞かれたら、にゃあ言い直す程度では誤魔化せないと解ってきた猫。

困ったらやっぱり逃げるが一番。名乗ってる場合じゃねえ！名前なんかないけど。

少女の説明を聞くと、少年は胸を撫で下ろした…かと思いきや、その表情には未だ困惑の色が残されている。

そこで少年は不自然な間を取り、何やら頷いたりしていたが…程なくして再び口を開く。

自己紹介を済ませると、シオンは言われるがままに相手の周囲に目をやってみる。
そういうものを見るのは得意な方なのか…シオンの顔が青ざめた。
同時に、シオンの周囲に漂う球体の色めき具合が若干強まる。

突如、青年がそれに向けて一発引き金を引く。
結果、発砲音だけが空しく響き渡った。

青年は残っていた弾丸を全て相手に向けて放った。
四肢と、眉間に一発ずつ。

死なないとは聞いていてもショックが大きかったらしく、シオンは絶句して棒立ちしている。