「オイ、メイリー……アレ、大丈夫なのか？」

　唐突にアイヴォリーが聞いた。しかも内容は曖昧過ぎて意味を為していない。

「……アレ？
　何のことだかよく分からないけど。」

　頭の上に疑問符でも乗っけていそうな様子で首を傾げるメイリーの反応は至極妥当なものだと言えるだろう。だが、そんなメイリーの腕を掴むと、アイヴォリーは近くの茂みの陰に彼女を強引に引きずり込んだ。

「ちょ、ちょっとアイっ、どうしたの急に？！」

　急に人気のないところに連れ込まれ、若干メイリーがあたふたしている。そんな彼女に、アイヴォリーは声を潜めると小声で聞いた。

「アレッつったらアレだよ！
　許可とか取ってんのかアレ？！」

「アレ？
　許可？？」

　相変わらず要領を得ないアイヴォリーの問いにメイリーは答えようがない。その彼女の様子を見て、アイヴォリーは辺りを周到に見回すと改めて彼女に向き直り聞いた。

「あの良く分かんねェフェアリーだよ！
　アレ、大丈夫なのかよ？！」

「あー、メアリーさんのこと？」

　ようやく話が通じた二人。どうやら彼が聞きたいのは、シェリーというエルフの少女とともにいたフェアリーのことらしい。

「名前とかモロだろ……サスガのオレも心配だぞ。」

　何が心配なのかはよく分からないが、アイヴォリーはそのフェアリーが心配らしい。
　そのメアリーという羽蟻の羽を持つフェアリー、名前もさることながら彼女の言い分によると前世でメイリーの兄弟だったという。無論、それをメイリーは知らない訳で、一方的に彼がそう言っているだけなのだが。どうやらアイヴォリーが言っているのはそのことらしい。

「第一前世ッてナンだよ？
　マサカメイリーにも前世の記憶が、とか言い出すワケじゃねェよな？」

「うーん……」

　口に人差し指を当てて首を傾げるメイリー。アイヴォリーは何とも言い難い微妙な、うんざりした様子と悲しい表情を混ぜ合わせたような引きつった表情でメイリーを見ている。

「もちろん許可とかそんなものはないのよ？
　ボクがどうこうってそういう問題ではないと思うし。それに、もしかしたらそういうこともあるかも知れないんじゃないかしら？」

　その答えを聞いて、手甲を付けた手のままで甲を目に当て、アイヴォリーが天を仰いだ。ある程度予想された回答だった、ということだろう。

「ま、まァだ。メイリーも気を付けろよ。ナニがあるか、分かんねェからなッ？
　後、変な記憶に目覚めたりするのはヤメてくれなッ？！」

　引きつった顔のままで、彼女の肩を両手で押さえてアイヴォリーが言ったことは、そんな感じの何とも残念な“忠告”だった。

相変わらず疑いの眼差しは向けているが、これ以上この場で追及する気はないようだ。

疑いの眼差しが、呆れの眼差しに変わった！