夕暮れの木陰、焚き火で遊ぶサラマンダーを横目に気にしながら、
地図をじっくり見つめて、もう少し近道になるルートを探す。

そんなことを考えていると、勢いよく声をかけてくる男が一人。

名は、毛七力　冫（ケナリキ　ニスイ）。
砂地を突っ切るルートを進攻する予定だが、単独で進むには心許ないとの事である。

砂地は確かに道程は厳しいが、危険な生物は少なく、かつそれなりに近道になるルートだ。
同行者が居るなら危険はさらに少なくなる。まさしく渡りに舟、二つ返事で了承を返した。

実は、まず一番に確保しておくべき物を確保できていない。

夕方にもなって、こんな所で焚き火を眺めているのはそういう理由だ。

言われて、肝を冷やす。この辺りは雑魚ばかりとはいえ、寝込みを襲われてはひとたまりもない。
夜の見張りはサラマンダーに頑張ってもらおう。

そう言って、ニスイはさっさと歩いて行ってしまった。

姿が見えなくなったのを確認。

焚き火で泳いでいたサラマンダーがくるりと振り返る。

聞いたところによれば、一揆に参加するふりをして、
一揆の参加者から金品を強奪する野盗も居るという話だ。用心に越したことはない。

アニマというのは、あの男、ニスイのエンブリオだろう。
同じエンブリオであるサラマンダーが言うならば間違いない。明日からの寝床についてはクリアだ。

今日は仕方がないが・・・野宿も貴重な経験になるだろう。




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暗く静かな部屋に、秒針がカチ、カチ、と響く


カチ、カチ


瞳に映るのは、細く背の高い、髭面の優男。


揺れる


カチ、カチ


どうしてだろう。この男を見ていると、自然に手が動く


右の手で、男を殴る。左に揺れる。


左の手で、男を殴る。右に揺れる。


カチ、カチ


秒針に合わせて、殴る


殴る、殴る、殴る、殴る


カチ、カチ、カチ、カチ


殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る


殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る



3600回を数えた頃、視界が赤く、





金色に染まる。

状況を確認する。どうやら慣れない野宿で、ちょっとした悪夢を見てしまったらしい。

顔からゆっくりとサラマンダーを剥がしながら考える。どうして、こんな夢を？

そういえば、昨日の戦闘でケット・シーを倒した際、妙な違和感があった。

怖い話はあまり得意じゃない。

入った？エンブリオとの契約？あの猫を斬った時の違和感の正体だろうか。

特に契約する意図は無かったんだが・・・

たどたどしく、しかし早口で語る。とても、非常にわかりにくい。

言われて、胸に手を当て瞳を閉じてみる。
赤と金色のイメージが広がっているのを感じたが、その端に小さく、黒いカードが見えた。

目を凝らす、こころのなかで。
カードの絵柄には、懐中時計を首に下げた二足歩行の猫が描かれており、
その猫は、ねこじゃらしに向かって一心不乱にねこぱんちを繰り返している様子だった。

ルリアンナが言っていた、エンブリオとの契約の資質。コントラクト・レベルと言ったか。
狭いというのは、まだ俺の実力が、複数のエンブリオを持つには足りていないという事だろう。

世には10体ものエンブリオを自在に操る戦士も居るらしい。
意図していなかったとはいえ、ケット・シーはエンブリオとして俺と契約してくれたのだ。
だったらそれに報いて、それなりの待遇をしてやりたいところだ。

サラマンダーが上目遣いで目の前をくるくると飛ぶ。
右を向いても、左を向いても、視界から決して離れない。

・・・すまん、ケット・シーよ。お前の場所については、かなり待ってもらう事になりそうだ。
申し訳ない気持ちで意識を向けると、カチ、カチ、と懐中時計が優しく時を待つ音が聞こえた。

号令を飛ばしたあと後方へと下がった。
そう、舐めプレイである。

号令に片手を上げて返事をしながら、抜刀もせず前方へ出る。

所謂、舐めプレイである。

しかしトキサメは回りこまれてしまった！

超法規的措置、見なかったことにする。

倒れた相手に手を差し伸べる。

遠くから騒がしい声が聞こえてきた。
そしてその声は徐々に近づいてくる。

…と思た矢先に少年は転倒、派手に水しぶきを上げて川に沈んでいった。