静まり返った廊下に部屋は数多かった。また、それらの空洞のなかで息を交わす生き物の気配は限られていた。そこここを輪胴の回るに任せて撃ち荒らすといくらかの小さな屋敷妖精たちが口々にはやしたてながら逃げていった。威嚇の銃とわかってはいたのだろう、そうした仕草に焦りの響きは感じ取れなかった。私の耳に妖精たちのシニフィエの子細はどうしてもとらえがたかったにせよ。

屋敷妖精たちは屋敷の主に頭を垂れ、配慮し、追従するべく存在している。生来がなにものかの臣下であることを宿命づけられている者たちだ……とはいえそれは主義というよりも生態の問題であり、文化というよりも本能の問題に属する。私はそうした在り方に少なからぬ吐き気を覚える。しかし豹に残忍だから肉を食うなと諭すのは馬鹿げているし、郭公に卵を落とすのはやめろと語るのも滑稽だろう。私とそれらの生き物は断絶している。

戸を開けては引き金を引く私をヤール、盲いたいつも通りの笑みを浮かべたまま見ている……いや、見えてはいない。ただそうしたほうがよいという身振りのならいとしてこちらへ顔を向けてるだけだ。彼本来の目に光が宿ることはない。つかの間に瞳を介して誰かの視力を借りることはあるにせよ、日の必ず暮れるように彼の視力はやがて闇を抱き光を失う。何日か前にもちょうどそうして彼の世界は日没し、今、ヤールにどうした種類の視野もない。

見透かされている気がする、とそれでもなお思うのは、ヤールのどこか子供じみた無邪気さが時に鋭く逡巡や矛盾の心を突くためだろう。どこまでが演技かも知れないし、一方でそうした人の心の機微への頓着はヤールに最も無縁なものに思える。彼は見えないものをとらえることに弱い。盲人であるのに不思議なことにも思える。ただ、彼は健常人の身体的にとらえるものへ実に適切に対処し振る舞うのとは裏腹に、目には見えないもの……心や社会関係、律法や道義といったものへの距離感がひどくおぼつかない。他者の目を自らのものとし得る力のためでもあるいはあるのかも知れない。ヤールは眺めであるならいくらかは容易に手にすることができる。しかし、眺めるよりもすこし深い（あるいはすこし位相をずらした）眺めについてはまだその辿り着き方の危ういように思われるのだった。……

時刻は折々の部屋の窓から差し込む光の傾きで窺い知れた。延々と続く永い廊下を歩き続けることは苦でなかったが――人工の床は行軍の土地としてはひどくましなものだ――続く似たような風景は一日に区切りを設けるためのきっかけにひどく欠けていた。それは革命の旅の遠回しな比喩のようでもあった。ともかくは進み続けなければならなかった。何かは進み続けていた。しかし私たちに全図を見ることはかなわなかった。あとどれだけ歩けば歩き終わるのかという軽量は、どうした種類のものであれ私たちを裏切り続けていた。……

左目に石を嵌めながらそんな事を問い