―枯れた土地―

いつものようにテンションを上げて喜ぶかと思えば意外にも、坂本はどこか遠くを見たまま煮え切らない声を出した。

データが無い事には研究は進まない。私達はだからエンブリオを集めようとしてたわけだが。
数に関しては特に問題もなく増えて行ってるなら、もうちょっと喜んでもいいんじゃないだろうか。

あ。まずったかもしれない。　もうちょっと言葉を選ぶべきだった、と後悔したのはすぐの事。
遠くを見ていた坂本はぐるん、と勢いをつけて私の顔を見ると案の定泣き叫んだ。

坂本達魔法使いの方は知らないが、確かに一揆の関係者の人からもそういう話は今の所聞かない。
…というか、一揆関係者とも言う程会えていない始末だった。
砂漠や地下牢だの、行くところ行くところ人気の薄いところなのだから仕方ない。
それもこれも、腐肉が人を避けるように行動しているせいだ。

もうちょっと研究の効率のいい方法があると思うのに。どこまでやる気が無いんだ、あの腐れぬいぐるみは。

指さした先にも、それどころか見える範囲にあの憎たらしい臭いぬいぐるみの姿も無い。

じわりと込み上がっていた苛立ちが急に跳ね上がるように沸いてくる。

見渡す限りの荒れた土地。
ぱっと目に当たるところに腐肉の姿は無い。ますます苛つくばかりだ。


研究が捗らないと坂本は嘆いていたが、嘆きたいのは私も一緒だ。
研究が終わらない限り、私はいつまでたってもこの訳のわからない助手業を続けなきゃいけない。

…だというのに、助手として手伝え、と言った本人がこんなにやる気が無いってどういう事だ。
こんなんじゃ、いつまで経っても終わるわけがない。そもそも、不義理にも程ってものがある。
こっちには助けてやった見返りだと義理を要求してくる癖に。

むしろもう何度も疑っているが、あいつの目的は本当に研究なんだろうか？
目的も、こんな荒れた土地をわざわざ通る理由さえ、何もかもはぐらかされているままだ。

むかつく。いい加減限界だ。

身の上をばらさないように、と私に言ってくるくらいだから、坂本が居る前じゃいつもの変態脅迫も出来ない筈だ。
それに、坂本だってあいつに研究を手伝わせたい筈。ニ対一でこちらが有利だ。
なんとしてでもあいつに研究をさせてやる。

あれだけ湧き起っていた怒りより、驚きが勝った。


私のちょうど後ろ。　そんなに離れていない距離から急に声が聞こえた。
わざわざ人探し…それもただの人じゃなくて小さなぬいぐるみを探していたのだから、見逃すわけがない。

何も無かった筈の振り返った先には、腐肉と同じような熊のぬいぐるみがそこに居た。

そう言って、硬貨の入った袋を放る。