お母さんの事はまったく覚えてない。
　生まれて少しは一緒にいたみたいだけど、物心付く頃にはいなかったから。
　お姉ちゃんはお母さんの顔を覚えているみたいだから羨ましい。

　だからお父さんに、お母さんの事を話して欲しいと頼むわけだけど、
　そんな時、お父さんは少し困った顔をした。
　そして、断片的に幾つかお母さんの話を聞いてあたしが満足すると、必ずこう言った。

　お前たちのお母さんは、お前たちを手放したくて手放したんじゃない。
　お前たちを大切に思っていたし、今も大切に思ってる。
　それは、疑わないように。信じてあげて。

　このお父さんの言葉は、当時のあたしに別の悩みを発生させた原因でもあるけど、
　何度も繰り返された言葉だから、お姉ちゃんはその言葉を信じてお母さんに会いに行った。
　あたしももちろん信じてる。
　お姉ちゃんに次に会う時はきっと、お母さんからの言葉が聞ける、と。

　拍手されてなんだか機嫌が良くなっているようだ

落ち込む。