ヒナにこっそり、袖を引っ張られた。ああ、何かしたな僕と思いつつ、ヒナにつれられて、魔法の灯りか、人口の灯りかわからないが、ともかく、煌びやかに装飾された町の中を進む。ヒナはうん、ここでいいねといって、女の子が入り浸るようなファンシーな喫茶店に僕を連れ込んだ。
困惑しつつも、いつものように元気にケーキ二つ下さい！と勝手に註文する、ヒナにジト目をむけ、店員に後、オレンジジュースと紅茶もと声をかけた。店員がいなくなると、僕から話を切り出す。
･･･なんだよ、呼び出して。しかも、こんな所で僕におごらせるなんて。僕がこういうところ嫌いなの知ってるだろ。
んー･･･、いつも、デイジーにかかりっきりだったから･･･。
そういって、顔を近づける。何でどぎまぎしてるんだ、私は。
嫉妬、してると思って。
悪戯っぽく、ふふっと笑う、金髪の少女。
･･･お前こそ、私がエリスにかまけてて、嫉妬してたんじゃないか。
精神的動揺をみせないために、低い声音で、目を逸らしつつ、話す。逸らした目線の先にニコニコと、金髪の少女が突如現れて、顔が高潮した。
うん。嫉妬、してたよ。ずっと福ちゃんと一緒だったもの。アタイ、福ちゃんのこと好きだもん。
へいへい。
福ちゃんは？
答えに詰まる。リマ君の例の話も受けていたせいで、下手なことはいえない。コイツの好きはlikeだとは分っている。
けれど、その、私のは、多分恋人未満友達以上の感情をこいつに抱いていると分っていた。この子は女の子で、人形なのに。私は頭がおかしいんだとつくづく思う。･･･そういう感情を抱いてるからこそ、ヒナを幸せにしたいから、一歩身を引いて、応援することにしたんだけど。ヒナのことが好きだから。
･･･友人としては好きだよ。
ぎこちなく微笑み、そう返す。太陽のような明るい笑みが顔いっぱいに広がった瞬間、顔を俯かせ、表情を分らないようにした。気取られるのはごめんだ。
アタイね、福ちゃんのこと、大切なお友達だと思ってるんだあ。だからね、嬉しいの！今日はだから、福ちゃんとだけ過ごしたかったの！
素直にそういえるこの子が羨ましい。返し方が分らず無言で紅茶を啜った。
沈黙が嫌なのか、ヒナは店に入る間中ニコニコと嬉しそうに、私に話しかける一方で、私はぶっきらぼうに返す。嫌になってくる。もっと素直にどうしてなれないのか。
ヒナ、楽しいか、わ、僕と話していて。
うん、とっても！
思わず、少し、微笑んだ。
福ちゃんは笑ったほうが可愛いよ。いつもぶっきらぼうな顔ししかしてないけれど。
からかわれてるのか、本音なのか分らないな。
ああ、嫌になってくる。この性格のおかげで、ヒナへの妙な感情への歯止めがかかっているのは分ってるけれど。しばらくして、食べ終わると、勿論会計は僕のおごりで。外にでると、身をきるような寒さだった。サンタの衣装をあつらえたとはいえ、ヒナは寒いのか震えていた。無言で私のポケットにヒナの手をとり突っ込んだ。
何やってるんだ、私は。
温かいねえ、福ちゃんありがとう。福ちゃんはやっぱり優しいねえ。
素直な笑みが向けられる。寒さのせいか、照れくさいせいか、顔が赤くなるのが分る。
･･･この子が私よりも好きな人がいるのは知っている。その人がヒナのことが好きなことも。でも･･･。
いつも根城にしている宿屋の前でヒナに抱きついた。
突然のことにぽかんとした顔をしていたが、福ちゃんは甘えん坊さんだねえ、人が見てるよと微笑むヒナ。
今日だけだから、もう二度としないからな。
ああ、私は完璧におかしくなっている。女の子相手にこんなことをしている時点でシルヴィにばれたら―。しばらくして、体を離し、宿に着いた。帰ってきたら、みんな寝静まっていた。助かった。
ヒナも疲れたのか、すぐにベッドに入るとすやすやと可愛らしい寝息を立て始めた。
眠ったフリをしていた僕はいそいそとベッドを抜け出し、鞄から、かわいらしい冬服をそっとあいつの枕元に置いた。

多分、こういうことが出来るのは今年が、最後なのかな。よく分らない。そんな気持ちを抱えて悶々としつつ、ベッドに転がっていた。

（鈴の音を聞き）