<Days19>


「こういうところは余り変わらないんだね」

　年の瀬が迫ルメルンテーゼでも、何やら忙しなくなるというのは変わらなく感じられた。
　そんな中私はある見せに掲げられた看板に思わず目が止まる。

「あ、アレは……？まさか……？」

　私は何度も目を擦って、そこに書いてある物を確かめた。
　だが何度確かめてもそこに書いてある事は変わらなかった。

「クリスマス……セール？」

　私は目を何度も疑ったが、ふらふらと吸い寄せられるようにその店へと向かっていた。

「お嬢さん、これが何だか判るの？」

　店には入った私を人の良さそうなおじさんが声を掛ける。

「は、はい」
「何でもこれは違う世界のクリスマスだか何だかってお祭りに使う物らしいんだよね、詳しくは知らないんだが、前にそれを教えてくれた人がいてね、折角だから便乗して見たんだけど、さっぱり売れなくてな、そうだ、お嬢さんに全部あげるよ、どうせ売れないしね」

　そう言って店主は店内にある物を袋に詰めると私に渡してきた。

「え？こ、こんなに？」
「まー、お嬢ちゃん可愛いし、プレゼントプレゼント」

　なにやら厄介払いで押しつけられただけという気もしないではなかったが、悪い気はしなかったので、私はお礼を言うとそれを受け取った。
　両手一杯の荷物を抱えて店を出た私は、丁度馴染みのある顔と出会ったのだった。

「祀さん、どうしたんですか？そんなに沢山の荷物……」
「あ、ルーシェちゃん……？」

　私はそこで一揆の最中に知り合った、儚げな少女ルシエ・ソルブランシェの名前を口にした。

「これは何ですか？そんなに荷物一杯……」
「あ？これ、クリスマス関係の物をお店の日がくれてね」
「クリスマス……ですか？」

　怪訝そうにするルーシェを見て、ああそうかと私は思った。

「クリスマスっていうのは私の世界のお祭り、って言うか記念日で、ある神聖な人の誕生祭のことなんだ。世界中でその人の事をお祝いするんだよ」
「へぇ、そうなんですか……、でもそれがなんでこっちでもお祝いになるんですか？」
「何だか私もよく判らないけど、ここの世界の人にその事を教えた人がいて、それで折角だからって事でその関係の物を売っていたらしいんだよ。結果はダメだったみたいだけどね」

　私は肩をすくめながら先程の顛末をルーシェに話すと、彼女もおかしそうに微笑んだ。

「あ、そういえば折角だしこれから二人でパーティしない？パーティ用の料理とかも貰ったけど、一人じゃ食べきれないし、これから私の部屋に来てさ」
「これから……ですか？」
「あ、用事があるんだったら無理しないでも良いよ？いきなりな話だしね」
「あ、いえ、そう言う訳じゃ無いんです、ただ少し驚いてしまって」
「あらら、驚かしちゃったんだ、ごめんね。でもそれじゃ良いって事かな？」
「はい」

　私にはそう言って答える彼女の微笑みが心底嬉しそうな物に思えたのだった。


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　私はルーシェの事を自分の止まっている宿に案内したが、どこか彼女はばつの悪そうな笑みを浮かべた。

「どうしたの？この宿じゃ嫌だったとか？」
「あ、いえ、そうじゃなくて……、私もここに泊まってるんですよ」
「え？」

　私は思わず間の抜けた答えを返してしまう。
　確かに私達の様に一揆に参加している人間は、宿に帰ってくる事もたまにで、顔を合わさない事も多いが、まさか同じ宿に泊まっていた事に気が付かなかったというのはどうにもばつが悪く私も感じてしまう。

「まさかご近所さんだったとは予想外だったね」
「そうですね」

　私はどうにもそれが不思議な縁のように感じて口元に笑みを浮かべたが、ルーシェも同じ様に笑みを浮かべていた。
　彼女もまた同じ様に感じていたのかもしれないななどと感じていた。

「それじゃ勝手知ったるなんとやらな部屋だけど、いらっしゃいませ」

　私は彼女を自分の部屋に案内すると、手にした荷物を床に置いた。
　
「適当に座っててよ、と言ってもベッドくらいしかない部屋だけど」

　この世界に突然やってくる事になり、仲間に助けて貰いながら何とか暮らしているために、最低限の物しかまだ持っていない部屋の事をどこか恥ずかしく思ってしまっていた。

「あ、アレ？こんな物まであるんだ……」

　私は荷物の中にサンタクロースの真っ赤な衣装が入っている事に気が付いた。

「アレ？何ですか？その服は……？」

　人目に付く赤い衣装だったために興味を引かれたルーシェが私に何の服かを聞いてきた。

「これ？サンタクロースって言って……なんて言えばいいのかな……夢を配ってくれるお仕事をしてる人の服だよ」
「夢を……ですか、なんだか素敵ですね」
「あはは、そ、そうだね」

　私は上手く伝わったのかわから無かったが、多分伝わったのだろうと思う事にした。

「でもそういう仕事の人の服ならちょっと着てみたいですね」
「着てみる？女性用のもあるから、一緒に着てみようか？」

　袋に女性用と書かれた物があるのを確認した私はそう彼女に提案した。

「そうですね。一緒に着てみるのも楽しそうですね」

　心なしか浮かれているように見えた彼女に、私は袋の一つを手渡した。

「それじゃ着てみようかってなんかこうやって着替えるのも何か恥ずかしいね」
「はは、そうですね」

　私はそう言いながら袋から衣装を出したところで思わず動きが固まってしまった。
　袋から出てきた服は確かにサンタクロースの衣装ではあったが、どこか大きく肩のあいた際どい長さのスカートのいわゆるミニスカサンタの物だったからだ。
　だが先程ああいう説明してしまった以上、これは違うとも言いにくく、私は小さくため息をついた。
　少し考えてしまったが、男性がここにいるわけで無し、たまにはこういうサプライズもありかなどと考えた私は、思い切ってその服に袖を通したのだった。


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「ず、随分大胆な衣装なのですね……」

　彼女に渡した衣装が違うと言った事はなく、私のと同じいわゆるマイクロミニのスカートだった、そのサンタ衣装に身を包んだルーシェは恥ずかしそうにその頬を紅く染めていた。
　普段どこか慎ましい衣装に身を包む事が多い彼女にとって、その衣装はかなり恥ずかしい物なのだろうと簡単に想像が付いたが、私はどこか悪戯心が湧いてきた。

「そ、そうなんだ。こういう感じで色々な人に夢を見させて上げるのもサンタクロースの大事な仕事なんだよ」「そうなんですか、サンタクロースというのも大変な仕事なんですね」
「そ、そうだね、あはは」

　私はその彼女の言葉を笑って誤魔化すが、恥ずかしがる彼女の事がどこか可愛いなとどこか感じていたのだった。

「そ、それじゃ折角の料理があるし、頂こうか」
「そうですね」

　切り分けられたチキンとケーキを前にして私達は微笑みあったのだった。


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「そういえば、ルーシェちゃんって温泉って興味ある？」

　一晩二人で過ごした後、床に引いた毛布からもそもそと起き出すと、ベッドで寝ているルーシェに話掛けた。
　もそもそ眠そうな目を擦りながらルーシェはゆっくりとその身を起こした。

「……温泉？」
「うん、なんでも星屑の小川の近くにいい温泉があるらしいんだ、一緒にどうかな？と思って」
「……温泉良いね……いくぅ……ふわぁぁ」

　ルーシェは一つ大きなあくびをすると、再び糸が切れたように輪TS死のベッドに横になっってしまった。


TobeContinued……

今回の日記はルシエ・ソルブランシェさん(2010)をお借りしました、感謝！！

声のした方に振り向く

彼女の周りにはひんやりとした空気とは違い、炎が浮いていた