「フィー、何作ってるの」

記憶を一生懸命たどり必死に形を作っているとふいに後ろから声をかけられた。
「レイ。あぁ、これ？プレゼント交換のケーキ！作ってみようかなって！」
「へぇ、すごいじゃない。」
実は初めてなんだとおどけて笑うと驚いたような顔をされた。
普段僕が作ってるものは僕が知ってるだけだ。
勿論、このサダクビアの面々と知り合って知った料理もたくさんある。
けれどもケーキだけは、このフルーツケーキしか知らないのだ。

毎年クリスマスになるとあの人が作っていたケーキ。
家族に止められながらもこれだけは、と言ってきかなかったっけ。
クリスマスにはピアノの音色が流れ、美味しい料理とケーキが並ぶ。
その様子を僕はずっと見守ってきた。
けれどもそれももう、長い間叶う事のないことなのだ。

「フィー」
レイとは別の声にﾊｯとする。
ふと目をやるとじっとケーキを見つめてるマグの姿があった。
「……それ、食べたいの？」
そう聞くと一瞬頷きかけて首を一生懸命ふられた。その姿に思わず笑みがこぼれてしまう。
「レイ、ピアノってあるかな」
「え？どうしたの急に」
「クリスマスパーティしよう！せっかくケーキもあることだし！」
「でもそれプレゼント交換のじゃ…」
「いーの！ちょっと大きく作りすぎちゃったし！材料もまだたくさんあるしね」
そういいながらマグを見るとすごく嬉しそうな顔をしていた。
余程食べたかったのだろうか。味はまぁ…大丈夫だと思うけれど。

「特別にマグの好きな果物が多いとこにしてあげる。何が好き？」
「えっ…えっと…ベリー系…いちごとか…」
「わかった！いちごね」
レイに皆と一緒に別の準備をお願いし、そういいながらいちごが多い所を探す。
どこが多いだろうか…と悩んでるとふいにマグが口を開いた。
「フィーは？」
「え？」
「フィーもいちご好き…？」


ふいに脳裏に浮かんだ笑顔
きっとフィーもいちごが好きになると思うんだ
毎年のようにそう僕に語りかけられた声


「……わかんない。食べたことないから。



でもきっと好きになれると思う。」


「……フィー、寂しい？」
突然の問いかけに思わず驚いてしまう。
「なんか寂しそうな顔、してた。いけないこといった？」
心配そうな顔でこちらを見てくるマグ。
「寂しくないよ！全然！」
そういって笑顔を作ったがまだ納得いかないといった顔でマグはこちらを見てくる。
「……皆が居るから寂しくないよ」
そっと頭を撫でてあげるとマグは小さく声を漏らした。
「本当？」
「本当」

誰も食べられることのなかった一切れのケーキ
毎年毎年懲りずに僕の為に用意される一切れのケーキ
けれどもぼくは食べることは出来なくて
それでも君は僕の為に用意してくれた
沢山のフルーツが乗ったピアノの形をしたケーキを


「フィー！ラザラスが料理手伝いなさいって！」
「はーい！わかった！じゃぁマグ。マグのケーキは僕に任せて！」
「…！ｺｸﾘ」


今年はどうやら初めて食べることが出来そうだ