――実際夜通しで語られたわけではないが、アマハルは「ヒトヒロ」についてお話をしてくれた。

ヨドは自分から頼んで置いて非常に申し訳ないと思いながらも、
理解することを途中で諦めて適当に相槌を打つことに終始していた。

何故なら、アマハルはばらばらのパズルのピースをその場でぶちまけるような、
あちこちに飛び、進み、戻り、ぶった切り、ふと思い出したように別の話が唐突に始まり……と、
それはもう滅茶苦茶な「お話」をしてくれたからだ。
気の弱いヨドには、途中で口を挟むことも出来ず――お話が終えた後、ヨドが関心を持った話は二つ。

一つは、アマハルは『人攫い』であるということ。

悪びれもせず言っていた。攫った、と。
ヒトヒロ――ティムラハは、その被害者である。彼はそれを知っている。
それは、もう、二十数年も前の話だ。

面倒事だろう。きっと。
それに『深入り』に当たるのではないだろうか。それを問うのは。

分からないことばかりだ、とヨドは思う。
それよりも、アマハルの「エンブリオを大事に想っている」という言葉で思い出したことがある。
ヨドがキヨを説得しようと一旦棲家に帰ったその間にいなくなっていたマーメイドのことだ。

エンブリオという立場において、主と定めた者の契約と解約は自身に大きく関わる事柄だ。
ティムラハが解約したのは、今にも先にも彼女のみである。
(カッパには何度か解約を持ち掛けていたが、頑なに拒絶されもう諦めているようだ)
何があったのか、何が原因でいなくなったのか、その矛先が自分に向けられたらどうしよう――
そうした恐怖を心の奥底に、蓋をして隠していたことを思い出してしまった。

この疑問は『深入り』になるのか？ヨドは考える。
分からない。また蓋をすることも出来たはずだ。でも、聞いておきたかった。
カッパや、アマハルの相手に追われるティムラハの傍に、自分の居場所があるのかどうか。
そのままでいい、という言葉をかけてもらっても満足できない。
――少し、強欲になった。ヨドは自分の中に膨らむ感情を持て余しながら、意を決した。

口ごもるティムラハに、ヨドは自然と顔がほころんだ。
すりすりと頭を擦り付けるヨドを見て、ティムラハは苦笑する。

そう言って故郷の日常風景を思い浮かべたティムラハは、
ヨドが小さく頬を膨らませていたことに気付かなかった。

＞ティム

＞アマハル

＞カッパ

＞ヨド

　　――しっぽがぴくんと跳ねた。