ナユの件で、シェリィのところに厄介になる口実は『冬場になると鈍るから鍛え直してくれ』…だったんだが、それはあくまで口実だ。

…口実だったはずだ。

今度飲みながら話そうなんて言ってたのが流れで夜営中に徒然と、みたいな形になった訳だが、正直積極的に酒を煽るような気分でもない…というか、今酒が入ったら夜襲に備える自信がない。
初日から、攻城戦よりもシェリィの『お手並み拝見』がきつかった。
正直なところぐったりしてる。
…まぁ酔い潰れるってほどでもなく熟睡してしまいそうって程度で、何かあればナユが無理矢理起こすだろうし、シェリィも時間を稼いでくれるだろうし…何より。

今のナユは、俺が本気で危機的状況に陥ったら、単騎で突っ込んでいきかねない。
まだ単体だとなんとか撹乱に使えるかどうかって力しかないのに、そのことも頭からすっこぬけてそうだ。

出会って暫くは、預けられる相手がいるなら本当に押し付けてとっとと厄介事とはおさらばしたいと思っていた。
それは確かだ。

…が、お人好し、お人好しと連呼されるほどナユの面倒はしっかり見ている、と思う。
お人好しってのが誉め言葉にならない傭兵稼業でそう言われ続けても面倒を見ると決めてることくらい分かっているだろうに、なんでこんなに俺の危険に過剰反応するのか分からない。

俺が押し付けたいと思っていた頃は、他のエンブリオと契約を結んだことにすごい勢いで反発したってのに、今はできるだけ強いエンブリオと契約して、それを自分が統括すると言い張る。
俺の負担が少なくなるから自分がまとめる、という理由に偽りはないだろうが、当初のナユは俺の負担云々より、自分の立場が危うくなることを懸念していたように思う。
それがなくなった今、何をそんなに過敏になるのか。

エンブリオの事情など皆目見当つかないし、そのエンブリオにも様々な形態（生態？）があるものだから、現在お手上げ状態だ。
仮説として、それまで召喚擬きで使っていたエンブリオの能力を、ナユが統括して媒介型になった影響、というのは立ててみた。
それも、同じように媒介型の使い方をしているシェリィを頼った理由だし…。

シェリィが俺を気に入ってしばき…じゃなくて、しごきたおしたい、というのと同じくらい何が気に入ったのか、ナユは妙にシェリィになついている。
俺には言わない、もしくは言えないことでもシェリィになら打ち明けるかもしれない。

グラスを手にちびちびやりながら、シェリィが口を開くまで考え込んでいた。




※Eno.229　シェルシェーリィさんをお借りしました。

（いやそれは何か違うだろ、というような事を口走っている）

（どうやら知識外の単語だったらしい。過去談に耳を傾け）

（最後は小さく呟いて。そんなに全力で遠慮しなくても機会があるかもねぇ？　等と嘯きつつ小さく肩を竦めてみせる）

（ナユさん談やらに耳を傾けると少し厳しい顔で）

（改めて紹介を受けると楽しそうに笑いつつ）

（そこは否定してあげようよ、みたいな流れでさっくり肯定しつつ）

（すりすりされて少し困った顔をしつつも突き放したりはしないあたりで、こっちも面倒見はいい気性らしい。ただ、肌には触れないでくれると有難い、と、服や手袋で隠していない唯一の素肌が見えている腕部分はちょっと気にしているようだった。
さらりと返された言葉には）

（分かりやすい傭兵の場合の喩えに耳を傾け）

（軽く揺らせばしゃらしゃらと何かが中で涼しげな音が。ペンダントの空洞部分に何かが入ってるのだろう）

（人並みより上の聴覚でナユさんの言葉も拾い上げて、ふふっと小さく笑う）

（いやそこは少しは何か反省すべきではないだろうか。平然と言い放つシェリィの横で、呆れた顔でアークがため息をついている）

（さらっと物騒な事を口走りつつ。ナユさんが場を外した後のリマさん談に、シェリィとアークは神妙な表情で耳を傾けてから）

# make matrix
> use option: NYPHN code2, GOPHN code3, HYKYH code4
>
> -- ready --

声と共にヘクスが晴れ、曖昧になっていた姿が顕になる。