その日の風はとても穏やかで、砂地を進む足も大分軽かった。
黒尽くめの衣装をまとった……青年に教えてもらった地下牢へはまだ進まない。まだそのときではない、とヴァルトは考える。
確かに、数日前と比べると自分たちは多少、ほんの少し、無いよりはマシ、それくらいのレベルで強くなっている。
だが、度々の失敗を経て「無理はよくない」という結論に達したのだ。なので今は、自分たちのペースで荒地を進むことにしている。

そんな、砂地での出来事である。


「オイ、大将。」

フランメがヴァルトを呼び止める。その視線の先には、子供一人が蹲った程度の大きさの岩。
アレが何だと訪ねようとした刹那、影が動いた。

「フランメ！」

流石に反応は慣れたもので、ヴァルトは即座にフランメを『憑依』させる。
ヴァルトの長い黒髪が朱に染まり切る頃には、手にした槍が影を貫き、地面に縫い止めていた。
その姿は今まで見たどのエンブリオよりも禍々しい気で覆われている。

「なァ、大将。……なんだァコイツは。」
『もしかしたら、エンブリオとは別種の何かなのかも……って、逃げてしまいますよ！？』
「あアっ！？オイこら、テメェッ」

フランメとヴァルトが疑問を口にし合っていた隙を突き、影は地面へと溶けるように消える。
そしてその場に残ったのは、地面に突き立った槍と、ヴァルトらの姿、それと――――



――――１体の弱ったエンブリオだった。

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
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　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
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