イカ焼きがとても、美味しい。
大きいだけあって、食べごたえも十分。
焦げを削ぐのと噛み切るのに、少し苦労したけれど。

差し出された時の、表情に。
以前の優しさや、気遣いを思い出して、目を合わせられなくなった。
煩わしいと、思われない事。堪えなくても、良いと。
そんな風に接される事には、あの家を出て数ヶ月経った今でも、慣れるものではなくて。けれど、
少しずつ、自分の中の基準が、塗変わっているように、感じる。
……それは、きっと、良い事なのだろうと、思う。

ソルトとルドさんが、単独で行動しているらしい。
ソルトは、普段からふらりと何処かへ消えて戻って来る事があるから、
今回もそれなのだと、思う。
彼は、先輩はメィレーさんを辿って来られるようだから、あまり心配していない。
けれど、ルドさんは。
用心棒、と言う役割からか、これまで一言も無く私達から離れるという事は、なかったように思えて。
少しだけ、心配になる。
彼は、今共にしている人達の中で一番腕が立つのだろうけれど。そういう問題では、なくて。

ソルトのように、何でもないように戻ってきて欲しいと、思う。

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抱きしめ合い、無事を確かめ合う二人。
兄妹というのは、こういうものなのだろうか。

祖父と私のそれとは、少しだけ違う形。
──自分自身では、叶う事のなかった、叶う事のない形。
羨ましくはない。けれど、眩いと、思う。


「――ルドルフ、トリス。二人とも無事で何よりだ」

駆け寄った先輩が、安堵の息と共にそう声を掛ける。

「お前たちはよく頑張った。もう大丈夫だ。……あとは、俺たちに任せろ」

ありがとう、お兄さん。と、小さなその子は言った。
けれど、本当にありがとうございましたと頭を下げる兄に対し、
彼女の瞳は、まだ。

「でも、任せろって、どういう意味なの」

真っ直ぐな眼差しと共に、そんな問いを口にする。
その声に、先輩から彼女に注がれる視線に違和感を感じて、少女を見つめる。
少女の奥の、その色。

「……混じってる」

欠片、と言っていいほど微かなそれには、見覚えがあった。
彼女を食らおうとした、闇色の霊騎士。
それにより自分を介さずとも、彼には『視え』、聞こえもするのだと。

「お前たちの代わりに、俺たちが新王をやっつける。だから、あとは休んでいてくれ」

見つめられても視線を揺らがせることなく、
彼は確かな口調で、けれど柔らかに、そう言った。

そして少女は、兄の腕に縋りながらも、少年の言葉にきゅ、と眉根を寄せる。

「……あなた達が倒してくれても、意味がないの。
　私は直接、あいつらに何かしてやりたい」

「──トリス。お前、まだそんな事を、」

「だって！」

ルドルフの咎声を遮り、少年へと声を張り上げる。

「私があんな風になっちゃったって言う事は、
　同じような目にあっちゃった人が他にも沢山いるって事でしょ。今も。
　その人達はもう一度ここに生まれてくる事だって出来なくなるんだ。
　それなのに。あいつらは酷い奴らなのに、何もしないで待ってるなんて、やだよ」

まだ小さな少女が出すには、苦しすぎる声。
一度手にかかったからこそ、再び失くなり掛けたからこそなのだろうと、わかる。

「……私は、彼女の気持ちを、叶えてあげたい」

危険だと止めるのが、正しいことなのかもしれない。
けれど、この声を聞いて、この顔を見て、
自分の勝手な気持ちを押し付ける気には、とてもなれなかった。

「だったら」

先輩も、彼女の気持ちを汲みたいと、思ったのかもしれない。

「俺たちと一緒に行くか」

彼女の表情から、切実さや険しさが消える。
シンプルで彼らしいその言葉を飲みきれないようにきょとりと一度瞬いて、

「うん。ありがとう、まことお兄ちゃん！」

それから、年相応に輝く瞳で、花のように微笑んだ。

周り三人がえっちらおっちら歩く中――一人、浮遊。
魔法で浮いて移動している。一人涼しい顔で、かなり楽そう。

両腕でばってんまーくを作る風の子に、しょんもり肩を落としつつ。