山岳を抜けると、そこには再び豊かな草花が広がる平原がそこには広がっていた。山岳と平原とを渡り歩く形になっているが、先を行く男には銀髪の少女が与り知らぬものが見えているのだろう…。

　そうして、祖父と邂逅してからの凡そ半月程の旅路を振り返る。
しかし、そこに法則性みたいなものは認められない…否、少女自体が介入したことでなら一つ心当たりがなくもないのだが、果たしてイレギュラーたる存在の介入で、英雄とも悪人とも称された男が行動に左右されるだろうか？？

　考えれば考えるほどドツボに嵌っていっているような気がして、そこで一端考えるのを中断させれば、折角景色の良いところに来たのだし、一つ大きく深呼吸していると肩に鎮座するピクシーのグラナが真似をするかのように柔い光を放つと、周囲に生える草花に薄らと陰影を加えて、それが返って真新しさを演出していた。

　その様子を見ていた炎の精霊たるルイも自身の体を振るわせようとして見せるも、彼女のお目付け役たる白狼アンジェロが阻止せんと、そっと口に咥えると先に待つであろう男の元へと走り去っていった。

　そこまで言った所で、ふと視界の端に何かが入った…ような、じっくり見ようと、そちらに注視してみると、不意に目と目が合ってしまって、蛇に睨まれた蛙の如く立ち止まっていると、前方より呆れた調子で少女がよく知る男の声が耳へと届いてきたのである。

　男に紹介されて、改めて自己紹介をしながら、同行者たる人物を眺めてみる。歳の頃は自分と同じ位だろうか。ふわっとしたやわらかそうな黒髪にフリルのワンピースがよく似合っている。同行者が連れる少女もまたワンピースにエプロン服なのを見ると趣向なのかも知れない。そういえば、少女の生家にも似たような格好をした人たちが詰めていたところを見ると、案外似たような趣向の持ち主は多いのかも知れない。

　そんな事を考えながら具に見つめていると、まるで身を隠すかのように同行者は連れる少女の後ろへと隠れてしまった…連れる少女の方が背丈が小さいのではあるが、まじまじと見つめてしまった事で畏怖にも近い感情を与えてしまったのかも知れない。
　それを抜きにしても怖がり過ぎなような…と腑に落ちない所もなくはなかったが、非礼があった事には変わりないので謝罪をするも、どうにも苦手意識を持たれてしまったのか、以後先導の役目に終始するべく祖父よりも前へと位置取られてしまえば、弁明する機会はそう多く巡ってくることはなかったのだった。

　少なからずやきもきしていたからという訳ではないのだが、それが前を行く同行者や祖父にも伝播したのかも知れない。行く手を遮るように現れ出た敵影に目当てのものが見つからなければ、男は有無を言わさず鞭を構えて応戦体勢を取ったのだった。


　工事帽を被ったモグラと、花をスカートのように履いた女性と思しき敵影が二つずつ。同行者は今回も敵影の中に見える女性のそれが怖いのか、それを優先するかのように手にする杖を振りかざしていく。祖父たる男も追随すべく追い討ちをかければ数の不利も苦にすることなく、間もなく戦いは終決したのだった。

　その戦いの最中、応援していた銀髪の少女は何か思い至ったようではあるが、先導してくれた手前、それを祖父へと進言する事はなく、改めてお礼を言うべく歩み寄ろうと考えて行動へと移すのであった。。。

一行に向かってどこか見覚えのある人影が小走りに駆け寄ってくる…
彼女は「みなさん元気そうで良かった！」と嬉しそうに笑うと代金と依頼品を差し出した。

以前砂地で同行した彼女であったが、変わりはなく元気にしているようだった。
世間話の合間に傍らのアンジェロをモフるのも忘れない。
──依頼品の完成を確認すると、手早く荷物をまとめ、頭を下げた。