今回意味なく三千文字ですが読まなくて問題ないです。



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改めてどくにんじんに契約エンブリオについて尋ねると、どくにんじんはつまらない冗談を挟んでからちゃんと教えてくれました（本当は2度ほど冗談の合間にどくにんじんを食べてしまって、話を中断してしまったのだけど、トリーはそのことをまったく覚えていません）。
なんとまあ、どくにんじんはトリーがエンブリオと契約するたびに片っ端からむしゃむしゃぺろり食べていたのでした。食べるというのは比喩のようなもので、本当はどくにんじんが食べられる側です。エンブリオのお口にひょいと飛び込んで、内側からその生き物の体に忍び込むやいなや、しゅるしゅるひげ根を伸ばし、体内に根を伝わせ、内側から支配してしまうのです！　そうしてエンブリオの体に寄生したどくにんじんは、エンブリオと一体化して、その体をより強いどくにんじんを生む土壌につくりかえます。囚われたエンブリオをどくにんじんの里へ持ち帰るのは別のにんじんのお仕事。その体を土に埋めて、どくにんじんの苗床にするのだとか。コロニーの中では今だってたくさんのエンブリオパワーを持ったにんじんがぽこぽこ生まれています。

眉唾じみた話ですが、それが森の中でトリーが教えられたどくにんじんの性質でした。

つまりどくにんじんは、今まで出会ったエンブリオ達をみんな食べてしまって、その上で平然とトリーの隣にいるのです。トリーはその話を聞いて、恐怖や嫌悪、あるいはそれを知らなかった自分を恥じらうといった感情を覚えることはちいっともなく、むしろ、どくにんじんはなんて凄いんだろう！　と思いました。

どくにんじんは頭を振りました（どくにんじんに首はありません）。

続きを尋ねる言葉が浮かばなくて、話は終わってしまいました。にんじんはトリーの先をるんるん歩きます。

どくにんじんの形をしてないどくにんじんだけど、どくにんじんである。それはどくにんじんであることを無視したとってもへんてこな生き物だと思いました。どのくらいへんてこかというと、先日水辺で会ったギャリィの何倍何乗もへんてこです。ギャリィは自分で動くことができる車ですが、トートに操縦されて動きます。人に運転される車なのか、それとも意思を持った車じゃない別の生き物なのかはっきりしなくて、今だってトリーはギャリィのことをへんてこだと思っています。

そしてギャリィとトートが頭によぎったとき、トリーの胸にすぅーと冷たい風が吹きました。地下牢にいたときにも同じことがありました。ここ二日、森にいた間はちっとも感じなかったので忘れていた感覚です。本当は森を出るときから予兆のものはありましたが、トリーは自分の心に鈍感なので気づくことはなかったのでした。けれども一度気づいてしまえば、感情というのはどんどん大きくなります。制御できないものであればなおさらです。大きくなっていく穴から目を背けたくて、トリーはにんじんに話しかけました。なんでもいいから、お喋りをすれば忘れられそうな気がしたのです。

そうでした！　トリーはなにかを探しに村を出たのです。けれどもなにを探していたのかも、探し物をしていること自体も、まっしろに忘れてしまっていたのでした。そのことを思い出した途端、トリーの頭を覆うもやと胸のさみしさが少し薄くなります。そして空いた隙間にぽんっと生まれたのは恐怖でした。大事なものを忘れていたことに対して？　平然といれた自分に対して？　いいえ、いいえ。この奇妙で不気味な小さな同行者、それもエンブリオをむしゃむしゃ食べて内側から寄生するどくにんじんに対してです。トリーは毎日どくにんじんを食べていました。どくにんじんと契約した理由は、いつでも食べれて、飢えさせないという触れ込みを受けてのものだったのですから、どくにんじんを何本も食べられることは当たり前だと思っていました。でも今はなぜでしょう？　どくにんじんの味を思い出そうとすると、口の中にはえぐみが広がり、胃の上はきゅっとして、背中がぞわぞわします。


あんなに美味しかったはずなのにどうして？


トリーは、とても、とても、たくさんのことを忘れていました。母親を探していたということも、今まで食べたにんじんはどこから現れたかという疑念も、それを平然と食べていた自分をおかしいと思う気持ちも、トリーがなぜ母親を探すようになったかということも、どくにんじんに対する疑問を考える頭も含め、トリーの頭から抜け落ちていたのでした。こういうわけでトリーはいつも笑うことができたのでした。今後のことに対する不安も、どくにんじんに対する不安も、正常であれば持つべきものが存在しなかったので、どくにんじんみたいにニコニコ笑って愛想を振りまけたというわけです。

トリーの頭の奥底に埋もれていた“忘れていたもの”が首をもたげ、水面に泡が立ちました。ぷくり膨れた泡は弾けることなく、空へ浮かびます。空へ空へふわふわ上って、ぱちん、弾けました。
ぱちん。ぱちん。ばちん。
新しい刺激がトリーの頭に広がり、それは新たな考えをトリーに想起させます。

トリーは気づきました。トリーはたくさんのどくにんじんを食べました。そして、そこにはトリーが寄生されていない保証なんてどこにもありません。自分も捕食されたエンブリオみたいに、体の中ではどくにんじんが根を張っているのかも。もしかしたら既に自分の体はこの化物に乗っ取られていて、今考えてることも自分じゃなくて体のどくにんじんが考えていて、トリーという少年は既に存在しないのかも……？
このときトリーは気づいていませんでしたが、体はがくがく震え、恐怖で体は氷みたいに冷たくなっていました。その足元にどくにんじんがそっと忍び寄ります。

どくにんじんは斑点状の禍々しいにんじんを抱えていました。それはいつもトリーに食べさせているにんじんと同じにんじんです。だからいつもみたいにトリーの口に投げ込みました。

ぱくん。もぐもぐ。ごっくん。

トリーはあんなにどくにんじんを怖がっていたのに、投げ込まれたにんじんを認識するよりも先に口を動かして食べてしまいました。

ぱたり。トリーは倒れます。
すぅすぅ寝息をたて、とても気持ちよさそうに眠っています。

にんじんはトリーの顔に近づくと、口に斑点にんじんを押し付けました。ぼりぼりむしゃむしゃ。あっという間にトリーはにんじん丸々一本を食べてしまいました。次ににんじんは真っ赤なネクターの花を口にあてました。途端にトリーは渋い顔をして、ごろんと寝返りを打ちます。まるで食べることを拒否しているかのようです。にんじんは反対側に回り込んで、トリーの鼻をつまみます。苦しげに咳き込んでトリーは口を開いたので、ぽいっとネクターを投げ込ました。けれどもそれは吐き出され、にんじんにぶつかります。花もにんじんもべとべとになったので、土に転がってキレイになりました。

トリーはなんでも食べてきました。普通の食べ物も、どくにんじんも、パワーストーンも、およそ普通の人間なら食べられないものを食べて体の栄養にすることができます。それはどくにんじんだって同じです。けれどもトリーとどくにんじんの間には一点だけ違う部分があって、トリーは絶対にネクターを食べないのでした。こうして眠っているときに試したり、いろんな料理に仕込んだり、どんな調理をしたって、絶対に吐き出してしまうのです。
それはとてもとてもおかしなことだなとにんじんは思っていました。
だってトリーもどくにんじんの仲間なのですから、ネクターを食べれて然るべきなのです。

有坂は即座に、祝福された炎をアオサマンに点す！

今度はとびかかられたノームが悲鳴を上げた。

なんだかよく分からないが、追いかけるにんじんと追いかけられるノームのじいさんの光景は、実にシュールだ。

スズメの言う"ノーム"は、たぶんノームじいさんの方である。

俺はトリー少年の目の前に並ぶエンブリオ一向を目の前に、突っ込まざるを得なかった。

　なぜ逃げ出さずに会話を続けているのだろう。

　エンジェルモード、と聞いた。
　エンジェル。はて。

　全力で前向きに捉えた。

　

　と思っていたら凄く物騒な事をさらっと説明された。

　

　

　

　差し出されたにんじんを受け取って、何かを決意したように刺激的すぎるにんじんをキッと見る。

　

　

　放っておけば勢いよくにんじん丸かじりをするだろう。

春蔵は、体を変化させたまま、吐息の荒いままで、まどろみに融けている。体も又、融けて、桃色に消えようとしている。
春蔵の自我が、消えようとしているのだ。
意識の無い体だけが、周りの戦意とネクターの力の残滓に惹かれて、戦場に踏み込み歩を進める。

輝く水面を眺めるように岸を歩くと、人参がまるで岩に腰掛けているように落ちていた。

人参を水につけて濯ぎ洗い、ぱくり。