かつて、異型の獣の脅威に遭遇した有野市麗入茄町（ありやし・れいれなちょう）。
そこを中心に、他にいくつもの町がある。俺の住む風桜町をはじめ、樽薔薇、瀬川本町、霧抜、紅城、網田町といった六つの町。
その町に、おそらくまだ生き残りの異型の獣が存在している可能性があると、親父達は読んでいる。
過去に六つの町で目撃例は一つも見られなかったのも、生き残りの獣が力を有していなかった為、目立つところを避けていたのかもしれない。
まだ残りの個体数も把握できていない以上、どうなることやら……。

ルーディはタブレットを俺の前に出すと、画面には獣たちの居場所を示すマップが表示されている。
獣たちの居場所には赤いマーカーで点滅し、微妙に動いているあたり住処のまわりをうろついているのだろうか。

以前森で戦った獣以上…かぁ。出来ることなら強力な助っ人が欲しい。
だけど別世界からこの世界へ…という訳にも行かないだろう。ルーディの力も、その相手にうまく働くかわからない。
元々ルーディの世界間移動は、俺がこの世界とメルンテーゼを行き来する為に作られた力なのだから。

ルーディは、自身の生みの親である存在にメールを送る。
【あの獣すぐに仕留められるような何かを用意してくれ】と記し、ご丁寧に自分が描いた絵まで添付している。
よくみるとその絵は、テレビで見た激おこぷんぷん丸の絵と何かよく似てる。

ルーディは受信したメールを確認し、そのメールを早速読み上げる。
その内容はと言うと……。

ハローなの、こっちは今、沖縄旅行の真っ只中なのっ♪
沖縄の海は都会の海と違ってすっごく青いなの、汚れていない海はこうも綺麗なものなの。
沖縄の料理はゴーヤチャンプルーに沖縄そば、ラフテーにジーマーミ豆腐にタコライス、美味しいものが沢山なの〜。
あっ、オリオンビールはもちろん欠かさないなのっ♪

おみやげは何がいいなの？色んな味のちんすこうがあって、色とりどりなのっ。
でもやっぱり定番の紅芋タルトも美味しそうなのっ。
あと、シークヮーサーなんかも割って飲むといいみたいなのっ。

えっ？食べ物ばっかりじゃなくて他にもほしいなの？
それならTシャツがあるなの。うみんちゅなの。
あっ、シーサーもあるのっ、結構可愛いのがたくさんあるなの♪

ルーディ宛のメールはそれからも沖縄の話が続く続く…。
一体いつまでこのメールが続くんだと言わんばかりに、とにかく長い。
…そしてメールを読み進めること数分、残りあと少し。
ここまで来て、結局ルーディが送ったメールへのまともな答えが返ってきていない。

メールはよく見ると、残りあと一行に何か書いてあるようだ。
この段階で俺はオチが読めた…、嫌な予感しかしない。
その残りあと一行を見てみると……。

P.S.策は既に用意してあるのっ★

まぁ、こんなメール送りつけられたんじゃあルーディもこうなる。
しかし既に策を用意してある…かぁ。さすがはこいつの親は手がはやい。
問題はそれがどういったものなのかだが……。


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沖縄のとある旅館の一室…、そこには一人ゆったりとくつろく一人の女性。
ルーディの生みの親は、リクライニングチェアに腰をかけ、近くのテーブルのノートＰＣを片手で操作する。
もう片方の手にはドリンクを持ち、ごくごくと飲む。えらく満喫しているようだ。

「よしっ…、こんなところなの。あとはここから起動させればＯＫなの。ルーディも心配性なの…、獣の位置を調べる段階から既にこっちも用意するものは用意しているなの」

エンターキーを押すと、画面には【SisterS】の文字が表示される。
その下のバーにはパーセンテージが表示され、さらに小さな文字で【起動中なのっ★】という表示が点滅している。
パーセンテージは一秒ごとに1％進行し、起動は着々と進んでいるようである。

「まだ完成度としては八割前後でも、テスト運転には十分な完成度なのっ。ルーディもたぶん驚くなのっ…、三人の妹分とこれから出会うことになるなのっ。妹ちゃんたち、後はよろしくなのっ」


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一方ルーディの実家のほうでは、何やら大きなカプセルが突然と起動し始める。
遠隔操作によって起動したそのカプセルにも【SisterS】の文字が記されている。
近くのコンピュータのモニターが起動すると、画面には起動率のパーセンテージが表示される。
一秒ごとに進行するパーセンテージ…、それがやがて25％…50％…75％と進んでいく。
カプセルの中には、ちょうど人間の重さとほぼ同等の銀色の液体。それはカプセルが起動したことで徐々に形を変えていく。
次第にそれは人型を形成していき、銀色の人型には次に人間の肌と同じ色や質感が生まれていく。
パーセンテージが残りわずかとなり、99％…そして100％を迎えると、起動したカプセルが動きを停止する。
ガコンッと扉が開くと、煙と共にその中から出てくる少女が三人。
一人は赤いツインテールにすとんとした身体つきの、三人の中では身長が一番低い少女。
もう一人は黄色いミドルヘアーに平均的な身体つきの、三人の中では身長は二番目の少女。
最後の一人は青いロングヘアーにわがままな身体つきの、三人の中で一番身長の高い少女。
この三人が、ルーディの生みの親の言う、妹ちゃんたちと呼ばれる少女たちである。

「ん〜っ、やっと外に出られたなぁ。まったく起動するのが遅いんだよぉ」
「身体のほうもいい感じに出来てますね。これなら、戦いもばっちりそうです」
「私は…ちょっと重いかなぁ」
「てめぇは胸がでけぇからだろうが、ドライ。こっちなんかすとんすとんすとんだぜっ？せめてその胸をちったぁ分けろよ！」
「まぁまぁ…、私はアインちゃんはそのほうが可愛いと思いますけどねぇ。可愛いは正義ですよぉ〜」
「私も出来れば別の身体がよかったけど、三人それぞれ身体つきにも違いがないと面白くないって言うから…。私は出来れば、ツヴァイくらいの身体がよかったかも」
「いっそあれだよ、三人とも同じ身体つきだったらよかったんだけどなっ。三人仲良く。っと…、それはともかく、画面見ろよっ、指示が来てるっ」

カプセルから出た三人は、すぐ近くのコンピュータのモニターへと目を通す。
モニターには、有野市内にいる獣の現在地を示すマップ。そして各地の異型の獣の駆逐、ならびに正義たちへの協力の指示が表示されている。
ご丁寧に、正義とルーディの顔写真もばっちりついている。

「ふ〜ん…、こいつが正義とルーディかぁ。何か対したことなさそうだけどなぁ」
「そんなこと言っちゃ駄目ですよ、アインちゃん。どんなに見た目が普通の人と変わりなくても、中身は実際に見てみなきゃわかりませんから」
「ツヴァイ…、どうみてもそっちのルーディっていう子の見た目、普通じゃない気がするんだけど……」
「どうみても新手の露出狂だよなぁ？よくこんな露出の多い格好が出来るもんだぜっ」
「でもそれがデフォルトみたい…、それにこういう格好でも身体の頑丈さは…恐ろしい程だとか。それはともかく、私達もそろそろ準備をしないと。着替えはそこに用意してあるみたいね」

三人の少女は、用意されている服を着用する。
専用の特殊生地で出来た服は彼女達の身体にしっかりフィットし、しっくりと決まる。

「いい感じだなぁ、こいつは身体によく馴染む」
「これで準備は完了…ですねっ。さぁ…、後は―」
「与えられた指示を、全力で成し遂げるのみ……」

目覚めたばかりの三人は、与えられた指示を全うするべく動き出す。
マップに記された獣たちの駆逐、そして正義たちへの協力である。
彼女達はSisterS…、ナノマシンによって構成された生命体。

ふう、と一つ改めて自分の常識、の狭さに悩むように息を零した。
あまり深刻になるな、と言われてもそればっかりは難しく。

ただ、ああ、と声を上げれば顔をあげ。

唐突ながら別れの、挨拶。
少しばかり急いでいるのか、足早にその場を去っていってしまった。

アクスをぶんぶん振り回しつつ

きょろきょろと周りを見渡す

アクスをぶんぶん振り回しつつ