暫く水辺を進んでいたけれど、今日は砂地の方へ進む事になった。
聞いた話では、その辺りには怪しい人物がいるらしいけれど…国王軍かしら…？
アシェラッドも、その人物と戦ったらしい。
相手が１人ならばそれほど警戒する事も無いかもしれないけれど、
安全にエンブリオを探すためには、援軍を呼ばれる前に倒してしまった方が良さそう…
…と言う所までは納得できるのだけれど…
そのための作戦が挟み撃ちである必要はあるのかしら…
アルファが姿を隠していてくれるならば安心だけれど、
分かれている間にアルファがケガでもしたらと思うと不安で仕方がない…。

地面に全部のお菓子を並べ終わって、座る。
コロの方はだいぶ少なくなってるけど、ハロウィンで貰ったお菓子はまだいっぱいある。

コロが手に取ったのは、赤いリボンを結んだ普通のビニール袋。
中にはひとつひとつが包装された、小さな四角いチョコが入ってる。

少し前にあったハロウィンというお祭りで、
お化けの仮装をしてトリックオアトリートと言うと、お菓子が貰えるらしい…
と聞いたコロが、２枚のシーツを持ってきた。
その白いシーツを被ってハロウィンパーティの会場に潜り込んで来たんだけど

丁寧に紙で包まれたスイートポテトが、オレンジ色の造花の結ばれた透明な袋の中に入ってる。
最初は４つずつ入ってたけど、コロの方は最後の１つが、今無くなった。
会場に向かう途中、秋の花に囲まれた古そうな建物があった。
『Trick or Treat　歓迎！』と書かれた看板があったのでこっそり入ってみると、
薄暗い室内に色々な花が咲いていて、奥には白い服のお姉さんがいた。
そのお姉さんに貰ったのが、このスイートポテト。

ポテトも美味しいけど、あそこにあった鏡みたいにキラキラする花も気になる。
もう１度行ったら、また見せてもらえるかな？

会場が見えて来たと思った時、
その脇にある小さな木造の小屋が目に入った。
小さい小屋だったけど、ピンクすぎて見逃す人はいないと思う。

真ピンクの小屋の上に座っていた真ピンクの人には、
花びらの砂糖漬けと蜂蜜のシロップを貰った。
ピンクすぎて驚かされたけど、良い人……
花びらとビン投げつけられたけど…あれ？
…なんか口も悪かったけど…いや、でもお菓子くれたし、良い人だよね？

ピンクの人に見送られて会場に入ると、見たことのあるような…無いような人がいた。
『ラリアンナちゃんの握手＆タックル会』
…と書いてあったから、ラリアンナちゃんという名前なんだと思うけど…
名前も聞いた事あるような、無いような…

まあ、それは置いておいて…
『すごく丸くて黄色くてかわいい極薄のクッキーらしきものをお付けします。』
という怪しげな文章に踊らされたコロが『ラリアンナちゃん』にいきなりタックルを仕掛けた。
怒られるかと思ったけど…ラリアンナさんは
『すごく丸くて黄色くてかわいい極薄のクッキーらしきもの』をくれた。
…ぶっちゃけ『たくあん』だった。

それから、ボクたちは隅にあったテーブルの下に隠れた。
しばらくすると、お菓子の入った袋を持ってふらふらと歩いてくる人がいたから、
ボクたちはテーブルの下から飛び出して、トリックオアトリートを決行した。
テーブルに潜んでいた時は、その人の下半身しか見えなくて
お兄さんかお姉さんか解らなかったけれど、
飛び出した後も…お兄さんだかお姉さんだか解らなかった。
声はお兄さんだったから、たぶんお兄さんだと思うけど。

そのお兄さん（仮）に、コロはチーズケーキを貰って、ボクはピーチパイを貰った。

テーブルの下に潜む作戦が上手くいって、ボクたちはもう１度テーブルに潜った。
次に近付いて来たのは黒い格好のお兄さんで、さっきと同じようにボクたちが飛び出すと、
お兄さんはカッコ良くバックステップを決めて、
ぶつかりそうになった後ろの人に軽く謝ってからこちらに向き直った。
動きや仕草のカッコイイお兄さんは、お菓子を持っていなかった。
コロがイタズラをしようと…あの構えをしたから、ボクのイタズラは
助け舟みたいなつもりだったんだけど、むしろ追い込んじゃったみたいで…
お兄さんはコロのえげつないイタズラを受けて、気絶した…。

お兄さんを放置して逃げてきたボクたちは、会場の隅でおばけカボチャ型のテントを見つけた。
周りはカボチャランタンやキャンドルでキレイに飾られている。
お菓子の匂いを嗅ぎ取ったコロがテントの中に飛び込んで、ボクもそれを追いかけると、
中には…お姉さんの格好をしたお兄さんがいた。
ぱっと見では性別がわからなかったけど…衣装は、用意してくれた人にイタズラされたらしい。
ごしゅうしょうさまです…。あ、でも竜の角と尻尾は本物みたいだ。

竜のお兄さんには、コロがチョコを貰って、ボクがましゅまろを貰った。
テントを出ると、近くからさっきの…
黒い格好のお兄さんの匂いがしたのでこっそり近付いてみると、
また、イタズラをされているみたいだった…
っていうか、よくわからないけどさっきのあのイタズラが
更に酷いイタズラに発展しているような…？
ボクはコロを連れて、また逃げるようにその場を離れた…。

そろそろ帰ろうかと外に出ると、陽が落ちてきてたから、
結構長い間遊んじゃったみたい。
トリックオアトリートもこれで終わりかなって思ったけど、
会場のそばに、来た時にはなかったテーブルがセットされていた。
お菓子の匂いの袋がいくつか並べられていて、
いかにもトリックオアトリートできます、みたいな。
見たとたんにコロが駆け出して、ボクも追いかけたけど、
そのテーブルに居たのは、ボクと同じぐらいの年にみえる女の子だった。
なんだかしょんぼりしてるのが気になったから、
少し考えて、姉さんに貰ったチョコの袋を差し出してみた。
せっかく姉さんがくれた物だけど、ボクも半分ぐらい食べたし、
これで女の子が元気になれば、姉さんも喜ぶかも…と思って。
でも女の子は、自分は大人だからと言って受け取らなかった。
どう見ても大人には見えないけど…背伸びしたい気持ちも解らなくはない、かな…
まぁ、ボクは後４年もしたら大人だから、焦ったりはしないけど。
チョコを見せたときに明らかに反応したこの子に、どうしたら受け取って貰えるかと考えて…
少しだけ渡す事ができた。
ボクも、果物の入ったクッキーを貰った。

そういえば、女の子に「お姉さんにもお礼を言っておいて」と言われたんだった。
砂地の方に行く前に言っておこうかな。

「また会ってもいい」というアルファの言葉に頬が緩む

大人しくユキナに挟まれた指を見せる。

話を頭の中でまとめた後

唇に指を当て、当てを考える様子

ふっと楽しげな話から一転、黙りこむ。それから静かな調子で言葉を出した。

さっ　とアルファの前に出る