「〜〜♪」

気分は上々、天気は晴々、世はすべてこともなし。
肩に着くか着かぬのあたりで切り揃えられた明るい茶色の髪をさらりと揺らしながら、何やら鼻歌を歌っているレイの姿は傍で見ているだけで不思議と此方も気分が良くなってくる。


「レイさん、なんだかうれしそうですね」
「目下にあった煩わしいものが片付いたからのぅ、鼻歌のひとつやふたつ出るじゃろうて」
「せんせー、あの庭師のおじさんはモノじゃなくてヒトですよ？」
「ああ、すまぬすまぬ。じゃが片付けた事には変わりはなかろ？」


各所で聞き集めてきたエンブリオの情報をまとめながら軽口を叩き合う。
教師と教え子の会話としては随分と砕けすぎているようにも思えるが――もとよりこの少年は同じ塔に籍を置く研究者でもあるのだ。さほど問題は、無い。


「かねてから狙うておった豊穣の狼を調査する機会に恵まれたのじゃ。面倒事が片付いた事――いや、わりと力技で片付けておったが――それと合わせ、嬢やにとってはめでたい事じゃろうの」
「会いたいと思って会えるとは限らないからこそ、こういう自然に属するモノの調査は面白いしやり甲斐があります」
「そうじゃな。そしてその機会も時間も有限じゃ。せっかくの好機を潰やすような真似は避けたいものじゃの」
「はい、せんせー」
「うむ……」
「……どうしたの、せんせー？」
「ああいや、どうにもレイの嬢やには種々の面倒事を頼まざるを得ぬ事が多いからの、また次に嬢やと組む時には少しは力になれるようにせねばならんと、そう思うただけじゃ」


薄青の空は白い綿雲を乗せ、ゆっくりと秋から冬へ変わりゆく。
気分は上々。天気は晴々。


（――なれども波高し、となるか否かは――今は神のみぞ知る）

簡単だろう、と否定しかけたところで、言葉が続く。

手の中で少しずつ石英が元素に変わり、ふわりと漂って落ちる