珍しくアーシェと行き先が分かれた。

あとで追いつくという約束で、卯の花腐しは一日だけ、森でエンブリオとの契約を求めて潜むことにした。



酷く体が疲れているように思う。
周りの気配を読んでいたり、じっと息を殺している間も、打ちよす波のように眠気が襲ってきて、
気がつくと木にもたれて眠っていたりする。

深閑たる森の中で、
薄く漂う霧、折り重なる腐葉土の感触、
濃く香る常緑樹の葉、時折まざる獣や虫たちの息遣い、

それらとひとつになってしまう夢を、短い眠りの中で、
卯の花腐しは何度も見た。

二手に別れる前のこと――

闇が華となって咲いたようなノールの束を差し出しながら、若者はそう注意を付け加えた。
これのみで麻薬《ルヴナン》と同等の幻覚作用が出ることはない。

若者は銀木犀に手を伸ばす。受け取った花を嗅ぎ、顔を綻ばせた。

呼びかけられるとビクリと肩を震わせて慌てて距離を取ろうとする。
が、足がもつれてその場にべしゃりと倒れた。
涙をこらえて気まずそうに立ち上がると、また相手と距離を置く。

骨のことに触れられると無言で後ろを向き、
腰のあたりに下げている道具一式を卯の花腐しに指し示して見せる。
真っ白な、骨で作られたようなツールがベルトに吊られている。

言うとポーチから小さなぬいぐるみを取り出す。
猫の形をしたそれを地面に置くと、不思議な事に
人形は独りでに立ち上がり、くるくると一回転すると丁寧にお辞儀した。