それは私が一国の主だった頃。
当時は賢王ともよばれ、国政も…まあ真面目にやっていた時代。

人よりも長く生き、世界のあり方や国のあり方、人のあり方まで目で見てきた私は
どの国よりも豊かで、どの国よりも堅牢な国を作り上げた。

国はこうあればいい。
人はこうあればいい。
王はこうあればいい。

日々、こうと決められた毎日を過ごす。
退屈もしたが、それでも平穏な日常は私に一時の安らぎを与えてくれた。


勿論それだけでは飽きたらず、作り上げた国を遊び歩いたりもした。
堅苦しく作り上げた中枢から、人々の笑顔あふれる日常へと刺激を求めて宛もなく歩く。
王である以上有名人であった私なのだからすぐ見つかったりもするけど、匿って貰ったり
見逃してもらったり。私はその国の笑顔の中心に存在していた。


長くはいられない世界。
人より長く生きるという事は、即ち人と同じ速度では老いないということだ。
何年たっても同じ姿でいる私を世界が許すわけがない。
表舞台に長くいれば、"そういう存在"に目をつけられてしまう。
この、太陽である国を犠牲にすることなど出来なかった。


「……さま……ラ…ディ…さま！」

突如耳元で聞こえた声で、現実に戻される。


「どうなされたんですの？ぼーっとなさって…」


「ああ、すまない。…それで、どうしたんだ？」


「もう！やっぱり聞いてなかったんですのね？もしかして、どこかお体でも悪いんですの？」


ぷくーっと頬をふくらませ怒りつつも、どこか心配そうに私を見つめる少女。
私の後任にするため、国一番の才女であった彼女を私自ら選んで教育を始めた。

別れの時はもうすぐだ。
なんでも卒なくこなし、私の教えを貪欲に吸収する少女は、すでに国を任せられる域に達していた。

（それでもここを去らないのは、未練があるのかもしれんな…）

私は去らなければいけないと考えながら、ここで死んでいきたいとも思っていた。
目の前の少女に国を譲る理由を思いつかないことをいいコトにズルズルと日々を過ごす…
だが、如何にこの陽溜りが愛おしかろうと、それでも私は決断しなければならない。
"化物"である私は、最初からここにいてはならなかったのだから。



しかし、そんな覚悟のない私をあざ笑うかのように、突然その生活は終わりを迎えた。
彼女に国の何たるかを教え始めて２年が経った冬、もうすぐ一年が終わるそんな雪の夜だった。


そう…もはや何もかもが遅すぎたのだ。

天使と呼ばれる存在が私を見つけるのとほぼ同じくして、あっという間に国は制圧された。
民は殺されることはなかったが、私が化物とわかっても慕い、私を逃した臣下たちは
最後まで抗い、そのほとんどが命を落とした。


最初の死者は、あの少女だった。
私をかばい、天使の剣を受けた。

その死に際に、私を何が何でも生かせと言ってくれた。
その少女は間違いなく王の器であったのだ。

次に死んでいったのは、私に長く仕え、切磋琢磨した騎士長であった男だった。
出会いはもう十年以上前。どこかの酒場で意気投合した若い剣士で、以来ずっと相棒であった青年。
私を森に逃がすために、迫り来る軍勢に単騎で立ち向かっていった。

その姿は真の騎士であった。

その後、何人もの仲間が私のために死んでいった。
長く私とともに国を作り上げた宰相。戦えもしなかったのに、剣を持って立ち向かい勇敢な死を迎えた。
最近私付きになった宮仕えの少女。私の身代わりになるべく陽動に向かい戻ることはなかった。
私がお忍びで外で遊んでいた時に匿ってくれた庭師。母のために騎士になった親孝行な少年。
死んでいった人間全員が、私の家族だった。

数にしては少ない…しかし、決して小さくない犠牲のお陰で、私は生き延びることが出来た。



暗くなった森の中。私は声を押し殺し、長らく流していなかった涙を流した。
友をなくした痛みと、こんな中生きていかなければいけない悲しみと、普通でない自分自身へと怒り。
色々なものが混ざりに混ざり、私の両の目から溢れ落ちる。


きっとこれから、私は天使を憎んで生きていく。
それがどういう結果になろうと、私は私を生かしてくれた者達のために生きなくてはならない。
運命の歯車が狂おうと、世界の一線を踏み越えようと…















国王：ブランディーヌ　（今のアリア）
まだしゃべり方が堅苦しかった頃。唯一愛された国でのお話。賢王の通称に恥じぬ名君だった。

少女：アリア　
名前の由来である後継者候補の少女。ブランディーヌと同性ながらも恋慕の情を抱いていた。

なぜかドヤ顔である。

燃え盛る焦げ肉を振り上げながらサイネルが襲い掛かってきた！
追いつかれたらゲンコツは必死だろう。

不純は無く、ただこの戦事に向かぬ感じだと思いつつ