私はそれを喜んで受けると言いました。
私は何も知らなかったのです。


そして私が目を覚ますと、そこはもう見たことのない世界でした。

木立の間をキラキラと輝く風が吹き抜けてゆきます。
生い茂る葉の隙間から漏れる日差しが地面をまだらに彩っています。

私は自分の視界が変化していることに気付きました。
まるで生まれて初めて目を開いた時のように、あらゆる色と光が鮮烈に飛び込んでくるのです。
そしてまた、肌をくすぐる風さえも、これまでに感じたことのない感覚のように思えました。

私は何気なく手を掲げて見ました。つるりとなめらかな肌に、小さな爪が乗っています。私にとっては見慣れたはずの手でした。
視線を下ろして見ました。細い二本の足が大地の上で、頼りなく体を支えています。
顔を撫でるようにして触れてみました。全く新鮮なその感覚は、私が何もかも変わってしまったことを教えてくれました。

「マガタキ……」
彼女の名を呼ぶ自分の声さえ、ひどく聞き慣れないような気がしました。

「私はいつでもここにいる」

振り返ると、そこには力を使い果たした彼女の姿がありました。
土気色の肌、不揃いな四肢、見慣れたはずのその身体は今にも崩れ落ちそうで……
一瞬、私の中に何か大きな感情が膨らむような予感が芽生えましたが、しかしそれはすぐにしぼんでしまいました。

「……どうか私を許して欲しい、マスター。」

私が何を言おうとしたのか、彼女は予め分かっていたようでした。
しかし私の心はそれを言葉にする前に、穏やかな波によって均されてしまうのでした。