〜前回のあらすじ〜
「で、随分放置されていたわけだけれど」
「あー、村と集会所の下位は全部終わったからな。今は☆７に入った所だ」
「案の定よね……」
「で、眠い上に頭痛するんで寝ても良いかな？」
「だったら何で書き始めようと思ったのよ」



「んん〜っ！やっぱりこっちは気持ち良いわね」

庭園について、すぐに嬢が深呼吸をするように伸びを始めた。
城内に入って、初めての荒地……そこから、平原に戻ってきていた。
話には聞いていたが、凄まじい場所だった。
枯れた木、割れた大地、環境に適応しなければいけなかった奇形な生物達。
聞いてはいたが、あの自然豊かな城内にこんな土地があるとは。
表と裏、光と闇……言い方は様々だが、そんな言葉たちがしっくり来る。

「――光と闇、ね」

思い浮かべた言葉を反芻するように呟き、鼻で笑うような苦笑を浮かべる。
自分でそれを言うのか、と言う思いがある。

嬢の顔が、今は生き生きとしている。
昨日は息を弾ませ、辛そうな表情をしていた。
無理もない。
本来箱入りだし、あんなに荒れた土地では。
自然豊かで気に満ちているカムヨリとは雲泥の差だった。
いや、カムヨリと比べる前に、傍にずっと良い比較対象がある。
あの水辺の清廉さ。
あの森の豊かさ。
あの山の雄大さ。
そして、この平原の美しさ。
どれも気に満ち溢れている。
これを光と闇と言わずして何と言おうか。
確かに、あそこは穢れた場所だった。

穢れた場所……それは何も汚らしいと言う意味ではない。
確かに、植物や水による自浄作用はないが、
風が強く吹き、砂岩だらけのこの場所は風化が早く、
全ての地形や構造物が脆い。
また、食物の少ない土地柄上、生物の死は他者の生に直結する。
弱肉強食といえば厳しく感じるが、
自然と言う構造内での最も単純明快な機構だ。
それは清々しくすらある。
では、どういう意味かと問われれば……そう。
生命や自然といった気の力、それが枯れているのだ。
もちろん生物も前述のように存在してはいるが
独自の適応をしたためにかなり特殊な存在になってしまったように見受けられる。
本来の姿から逸脱した、歪な存在。
それは、自然の理に気の循環を発生させない。
故に、気が枯れた土地。
転じて、穢れた土地となるのだ。
そして、カムヨリの巫女は大地を神とし、自然と調和して生きてきた。
その為、嬢には多分生き辛い場所であったはずだ。
いや、全ての生物に彼の地は厳しいが。

そんなことを考えていると、此方の視線気付いたのか
嬢が小首を傾げながらとことことやってきた。

「どうしたのよ？なにかあったの？」
「いや、何でもないさ」

笑って手を振り答える。
それに対し、嬢は多少いぶかしんだものの

「そう？なら良いけど……困ったことがあったらちゃんと言わないと駄目なんだからね？」
「ああ、大丈夫……問題ないよ」
「本当にー？董琉、あまり話さないから何考えてるか判らないところあるのよね」
「おっと、幼馴染に酷いことを言うな。そこはせめて何でもお見通しくらいは言って欲しいね」
「だって本当のことじゃないの……ま、いいわ。お昼時になったら呼んでね」
「心得た」

今ではすっかり飯炊き係が板に付いたらしい。
まぁ、嫌いではないが。
どうやら嬢は散策に出かけるようだ。
この付近なら、まぁ問題はあるまい。

「光……か」

ポツリ、また呟く。
そう……私にとって、彼女は光だ。
明るく朗らかで、生まれもあるのに訳隔てなく他人と接することが出来る。
憧れと言っても良いだろう。
彼女は、私にとって眩しすぎたのだ。


『だからこそ、貴方は追い求めるのですね』


「！？」

急に、つい先日言われたことが思い出された。






それは、水辺に行った時のことだ。
首尾よく、戦闘に勝った私たちは各々が契約できる相手を見繕っていた。
かく言う私もその中の一体に目星をつけていた。
パロロコン……力ある水神だ。
今後の為にも役に立つはず。
そう思い近付いた。

『私と契約するのですか、人の子よ』
『ああ、私は貴方との契約を望む』
『……いいでしょう、敗北した我らは従う義務がある。しかし』
『？』

瞳がほうっと光り輝いたかと思うと、
それは此方をじっと覗き込んだ。

『貴方は、それを望んでいるのですか？』
『！？』
『本当に、私の力は貴方に必要ですか？』
『当然だ！』
『それでも、貴方の本質は……』

その時、私は全てを見透かされている気がした。

『違う！そんなことはない！光だって、私は使える！！』
『ですが、それはかなり無理を強いているでしょう。相当に扱い辛いはずです』
『……大丈夫だ、問題はない』
『強くあろうとする為に、更に貴方は目指す所から遠ざかる……そこに気付きなさい。どうして貴方は』

ふと、彼が何かに気付いた。

『……なるほど、貴方はむしろ影なのですね』
『それ、は……』
『だからこそ、貴方は追い求めるのですね』
『…………』

空を見つめながら彼は続ける。

『今はまだその時ではないようです、申し訳ありませんが』
『……ああ』
『貴方が受け入れられる階に至った時、お会いしかったいですね。しかし、それも叶わぬ夢』

そう言うと、一瞬で空を駆けそしてまた水辺まで急降下し

とぷり．．．ザァァァァァァァ

跳ねた水が、そのまま降り注いできたのではないかと思う程、
水底に姿を消すと同時に激しい雨が降り注いだ。

『やだっ、早く隠れないと……董琉、何してるの？早くこっちにいらっしゃい！！董琉！！』
『…………』




「……受け入れらる階、か」

あの雨の冷たさが、今にも指の先を冷やすように感じた。
天を仰ぐ。
今はあの時と違い、雨は降っていない。
しかし――

「その時が来てしまったら、私は……」

夏の青は、今では殆どが失われてしまった。
夕暮れに差し掛かる秋の紅が、物悲しさを掻き立てる風を連れて来ていた。