「ともあれ――
　まぁ、そろそろ進軍しないといけないわけだけど……」
アルネスが三人を見る。
煎餅をばりばりと食べているエモ。
携帯ゲームを弄っている魅月。
そして……
つぶらな瞳でアルネスを見上げるペルチェ。
アルネスは一つ嘆息して――
「うん。
　まぁ、分かってた。
　頼りになるのは自分しかいないって。
　――で、草原を最初は通って行こうと思うんだけど。」
それでもなお、一揆についての話をしようとするが、
「まかせた。」
「良いんじゃない？」
「ペルチェもそれでいいと思うウサ。」
速攻で何も考えてないような返事が来る始末である。
「――ペルチェちゃんは……
　うん。
　まぁ、良いとしても、
　残り二人、やる気低すぎない？」
『？』
「うん、その何言ってるのこの人？
　みたいな顔やめてくれない？」
「だいじょうぶ。
　たべもののためにがんばる。」
「エモさんは……それでいいや。
　で……」
アルネスの目が黙々と携帯ゲームを弄る魅月へと移る。
「観光だもの。
　ああ。移動する時はゲームやめるわよ。」
「……せめて次の行動方針の会話には参加してくれないかな！？」
「必要がありそうなら。」
「……モウイイデス。
　じゃ、草原を進むという事で、
　出発するけど、
　用意は出来てるね。」
「うん。できてる。」
「出来てるウサ。」
「当然。」
「じゃ、行こうか。
　うん。なんかもう深く考えるのはやめた。」
ため息をつきながらアルネスは諦めたように首を振って先頭を歩く、
後の三人がそれに続く形で、
四人は行軍を開始する。
様々な不安をアルネスは一人抱えながら。

――行軍を開始してどれほどになったか。
特に問題なく一日が過ぎようとした頃、
四人の視界に二足歩行で歩く猫が三体と、
不定形の緑色のうごめく液体が一体、
行く手を遮るように此方に向かってくるのに気付いた。
「――敵ね。」
ぽつりともらした魅月の言葉に三人は頷く。
「どうしよっか？」
「――まだお互いの事も良く分かってないし、
　慎重に油断せず行きたいけど……」
「ペルチェは戦いとか良く分からないから、
　指示に従うウサ。
　とりあえず、皆が戦いやすいよう、
　支援は任せて欲しいウサ！」
そんな三者三様の言葉に、
魅月は一つ頷き……
「良い案があるわ。」
真剣な表情で真っ直ぐに三人を見つめる。
その表情と視線があまりにも真っ直ぐだったせいだろうか。
三人は頷いて、魅月にどんな策なのか先を促す。
その様子に満足したように魅月は一つ頷き。
「アルネスさんが一人で突っ込んで全滅させればいいと思うわ。」
「ちょ、ま……！」
「ないすあいであ！」
「流石にそれはないと思うウサよ……？」
アルネスへと無茶振りである。
流石に慌てるアルネスと、
悪乗りをするエモ、
そしておろおろするペルチェではあるが、
何れにせよ魅月の中では決定事項だったらしく……
「じゃあ頑張って。」
そのまま話を進めようとする。
だが……
「いくらなんでも……それは無茶な！
　せめてエモさん！
　エモさんだけでも助けて！？
　なんていうか相手の力量も分からないのに、
　一人で突っ込むほど馬鹿じゃないよ！？」
「だがことわる。」
「いや、断るじゃなくて……
　うん、
　あれだ……
　私が前に立つから、
　せめて後ろで支援なりなんなりしてくれないかな。」
「しかたないなぁ。」
「ペルチェは最初からそのつもりウサよ？」
「うん、良かった。
　で、魅月さんは……」
「私は何もしないわよ？」
「デッスヨネー。」
もう魅月さんに関してはいいやと、
アルネスは諦めて斧を構える。
「それじゃあ、
　いち、にの、さん！で突撃するよ。
　ああもう……
　さっさと終わらせてのんびりしたいところだねぇ……
　流石に私の仕事量がこのままだとマッハだと思うんだ。
　じゃあ、いち……にの……さん！」
アルネスの号令と共にアルネスが突撃する。
遅れるようにして、
残りの三人もアルネスを追う。
「ねぇ。みつき――」
「ええ。
　しっかりとアルネスさんの支援をしてあげないとね。
　其の為にもまずは先手を取る事。
　違うかしら？」
「うん。そうだね。
　それじゃあ……」
突貫するアルネスをペルチェが淡い光の幕で覆うのを見ながら、
魅月とエモは連携してアルネスを加速させる。
「ありがと！
　それじゃあ力を溜めて――！
　破ァッ！！」
突っ込んでアルネスに気付き、
飛沫を飛ばし迎撃する緑の液体生物……アメーバと、
ひっかいたり、体当りしてアルネスを襲う猫……ケット・シー、
であるが、
障壁に守られ、
光の弾丸の如く突撃するアルネスを止める事は出来ない。
頭を狙って放たれた斧の一撃が、
猫の額を打ち砕く。
「よし、快調！
　続けて行こうか！
　ペルチェちゃんも凄いなぁ……
　障壁といい治癒といい、
　私と凄く相性が良い。
　それに……」
チラリとアルネスがエモをみやると、
エモは衝撃を放ち、
アメーバとケット・シーを吹き飛ばし続けている。
時折、
精神をえぐる事で、
その精神のダメージを肉体へのダメージを変換したりしてる辺り、
エモの実力の高さを証明しているともいえる。
「エモさんも相変わらず、
　魔法が凄いし、
　このパーティのバランスはなんだかんだ言って、
　良いね。
　不安だったけど、安心できる。
　後は……」
斧を振るう手を休めずに、
アルネスは、
魅月の方をちらりとみやる。
だが、予想通りというか、
魅月は全く動いていなかった。
指を鳴らしたり指を指しながら、
「さ、行きなさい。」
と。命令するように指示らしきものを飛ばしている。
だが、
本人は全く動いてもいないし、
何もしていない。
「――魅月さんなんだけど、
　本気で何もしてねえ……！
　うん。
　あれだ。
　ドウシテコウナッタ。」
ただし、それはアルネスの視点からの話である。
元より知っているエモ、
そしてペルチェの目から見ると、
全く別の光景が移っていた。
数多の霊が集い、
敵を拘束し、
蝕み、
屠り去っていく。
見えざる軍勢の指揮。
それこそが魅月の基本的な戦い方。
見えるのは資質のあるものか、
それらを目を凝らして見たものだけ。
故に、
魅月にしか注視しているアルネスには、
魅月が本当は何をやっているかは見えないし、
魅月自身が基本的に誤解を解くつもりはない。
何故ならば、
そんな事は言う必要がないと魅月は考えているからである。
かといって、
別にパーティの仲間を信用してないだとか、
信頼してないだとかではなく――
単純に面白いから、
である。
面白くあればそれでいいと思っている魅月らしい話ではあるだろう。
そうこうしているうちに、
みるみるうちに駆逐されていくケットシー達。
「後は一体ッ……！」
そう言って、
最後のケットシーをアルネスが斧で屠り、
最後に残ったアメーバを見やると、
先ほどまでいたアメーバの姿は其処には無かった。
エモが倒したのかとアルネスは考えるが、
そうではなく……
「みつき！」
エモの声にアルネスが魅月の方をみやると、
アメーバが魅月へと襲いかかっていた。
「危ない！
　全くいくら私が防いでるからってそんな無防備でいるから――！
　避けて！」
それを見て、悲鳴を上げるように叫ぶアルネス。
元より優しい性格であるが故に、
たとえ役に立たなくて、
余裕な姿勢と態度を崩さず、
見捨ててやろうかと思う事がある魅月であろうとも、
いざ危険となれば話は別である。
なんとか無事であって欲しい。
そう願い、
魅月の元に駆ける。
だが……
「ああ、慌てないで良いわよ。
　心配は全くいらないわ。」
「あ。わかってたならだいじょうぶだね。」
分かっているにも関わらず、
落ち着いた声でいう魅月に、
それを聞いて安堵の表情を浮かべるエモ。
「防御も間に合わないウサ……！
　大丈夫とか冗談いってる場合じゃないウサよ……！」
アルネスと同じく、
心配しているペルチェ。
だが、アルネスもペルチェも間に合わない。
アメーバは魅月へと覆いかぶさり、
――ジュウゥゥ……
そんな肉を焼く音と、
肉が溶ける悪臭が放たれる。
毒でもあり酸でもあるアメーバに襲い掛かられて、
防御も何もしなかったのだ。
当たり前だろう。
だが――
そんな悲惨な状況でありながらも魅月は笑う。
「だって、もう終わっている勝負だもの。
　慌てる必要も防ぐ必要もないわ。」
笑いながら魅月がいうと、
それが真実であるかのように、
アメーバがだんだんと小さく溶けるように消えてゆく。
これによって戦いは終わった訳だが……
「全く、
　最後の力を振り絞ってといった所でしょうけどね。
　何を仕掛けていたか直感で勘付いていたみたいだし。
　――ともあれ、そこのケット・シーは役に立ちそうだから、
　その魂を利用させて貰うとして……
　少し足りないわね。」
半身が溶けるという、
大きな怪我をおったというのに平然と呟く魅月の様子に、
唖然とするアルネスとペルチェを尻目に呟きながら、
半身が溶けた状態で懐からサバイバルナイフを魅月は取り出し、
――躊躇なく、その刃を自分の喉へと突き立てた。
「なっ――なんで！？」
「ちょ、ちょっと待つウサ！
　なんで自殺なんて……！」
慌てるアルネスとペルチェ。
だが、
「まぁ、そうなるよね。」
エモは慌てない。
エモは魅月を知っている。
だからこそ、
その意味する所を知っている。
「――」
ズブリ、と刃を抜き倒れる魅月。
駆けつけるアルネスとペルチェ。
しかし……
「――ああ、ダメージが少なすぎただけよ。
　心配要らないわ。
　……まぁ、思ったより早く復帰出来たけど、
　次はどうなるか分からない。
　まぁ、それでも……一日すれば大丈夫だから、
　同じ事があったら放置しておいてくれればいいわ。」
駆けつけるより早く魅月は立ち上がる。
半身が溶けた様子も、
喉に怪我をした様子もない。
だが……
喉に突き立てた刃を抜いた時に流れ出た血と、
血にまみれた刃、
そして、溶け落ちて血に塗れたセーラー服だけが、
その怪我が現実にあった事を証明している。
唖然とする二人を尻目に、慌てる様子もなく、
セーラー服の上に荷物から適当な上着を取り出して羽織る。
「まぁ、しなないとりせっとできないんだっけ？」
「そうね。
　まぁ、大した事ないわ。
　私に攻撃されても無意味だし。」
「だよねぇ。」
平然と会話する魅月とエモに、
「いやいやいやいや！？
　なんかおかしくない！？」
「え、ちょっと待つウサ！？
　完全にあれは致命傷だったんじゃないかウサ！？」
思わずアルネスとペルチェが突っ込みをいれてしまうのも当然だろう。
「……まぁ、うん。
　どういう事なのか説明してくれませんかねぇ？」
だがすぐに、
我を忘れて取り乱した事に気付いたアルネスが、
一つ咳払いをして魅月に説明を求める。
だが……
「嫌よ。」
速攻で拒否をする魅月。
「なんで！？」
「ネタばらししたら面白くないじゃない。」
それも、ただ面白くないというだけの理由で。
「面白い面白くない以前に、
　正直心臓に悪いウサ。」
「うん。ほんとにね。全く……
　どうしても説明するのは嫌なの？」
流石にそんな理由では納得できない二人が微妙な様相を示すと、
不意に。
「単に私が年を取らないし死なないだけで、
　死ぬ事によって蘇る力で大怪我もリセットが出来るから、
　半端なダメージを受けた状態でいるより、
　そのまま致命傷をおって一度死亡した方が楽なだけよ。
　アメーバの攻撃をかわさなかったのは、
　かわさなかったのではなく、
　かわす必要が無かっただけよ。
　下手によけて中途半端なダメージを受ける方が困るし。
　誤算だったのは、攻撃が弱すぎた事ね。
　説明はこんな感じでいいかしら？」
魅月は理由を率直に話す。
「ちょ、嫌だったんじゃないの！？」
「あら、説明しない方が良かったかしら？」
「いや、そうじゃなくて……
　うん。まぁ、いいや。
　なんか余計にからかわれる気がするし。
　それならそれで前に立てば……」
「前衛に立つ貴方が、
　いくら不死身でも後ろに通すような前衛が役に立つと思う？
　後ろから攻撃出来るのに。」
「まぁ、そりゃあって……
　後ろから攻撃出来るならしてくれれば……」
釈然としないが故に問い詰めるアルネスを
さらりとかわす魅月。
そしてアルネスのその問いかけに答えたのは魅月ではなく――
「みつきはみえないれいをあやつってこうげきとかぼうがいしてる。
　たしかそうだったよね？」
エモだった。
これに関しては魅月が答えないだろうと珍しくエモが気を効かせた結果である。
「そうなの？」
「まぁ、そんな感じね。」
アルネスが本人に真意を確かめると、
どうでもいい話だというようにおざなりに頷く魅月に、
やっぱり勝てないなぁ……と思うアルネスだった。

彼は実に子供らしい発想でそう答えた。

小声で漏らす。
『ロリ扱いはちょっとね。』＝『子供扱いしないでください！』と言われた程度の認識だ。

[不敬ですぞ。]がすっ「勝手に人の考え呼んで殴るな。」等々、楽しそうな（？）やりとりが漏れ聞こえ。

なんとなく後頭部から肩の辺り――蜘蛛の時は脳の代わりをはたす神経節が複数集まる頭胸部だった気がする箇所――を撫でながら。

だんだん丁寧語で話すのが面倒臭くなってきたらしく、言葉使いが崩れてきたよ。

自分が人でもある事を思い出す前に、何人か冒険者登録前の人間を獲物と間違えて食ってしまったのは、まあ、ご愛嬌。
冒険者試練を通過した実力者に襲いかかる前に思い出せたのは、マジで行幸。

電話の相手は
一族と結構深く関わっているっぽいのに一族の者ではなくて、
擬似的な不老不死者で、
一族からむしろ忌まれてる存在だと言う…？
でも何故か自分には親しげに話してくる。
しばし、土蜘蛛一族の知識で考え…

ぶつくさ呟き

未成年だけど十代後半なら手を出しかもしれない。未成年なのは外見だけなら尚更に。
理由はやはり忘れているが、おろしの巫女も巫もなんか気に入らない出来事があって、自分が全員殺処分を下した覚えがある。

殺すと決まった以上、体の関係があるだけで見逃すとも思えんが。
性の相性が良くて気に入ったなら、いつでも殺せる余裕から助けた可能性も全く無いとは言い切れんよな…

とかなんとか。結局土蜘蛛一族が隠してる[おろしの巫女]と魅月さん自身は無関係な話なのに、頭の中で色々考え込む。

人らしくあろうとしてた岩絃の記憶が無いこいつは、朔位とかみたいな他の土蜘蛛と似たような思考言動になってるかも。
島時代にお茶した時、『俺は他の(一族)連中と考え合わないから。』と苦笑しながら愚痴ったこともあった…と云うことで。

ばっさり。

カワイラシイネコと呼ばれたからそっちを向いて返事する黒猫。

懐に常備かい！？って突っ込みは置いといて、
猫、飛び掛かる準備に入りましたー！