気がつけば、一人でどこか知らない場所にいた。
近くにはただの石ころと、私の血でべとりとした宝石が転がっていた。
気持ちは沈みながらも、染み付いた冒険者の生活、本能……そんなものが私の身体を動かした。
周囲の気配を探る。……人も獣も魔もいない。
ならひとまずは安全。安全ならやれることはいっぱいある。
次に装備を脱ぎ、自分の状態を確認する。
魔力はそんなに残ってない。エンブリオを働かせるのは、今は無理だ。
身体には……深く刻まれた爪痕、斧の傷、火傷。この服の下には、きっともっと多くの傷があるはず。
とても見れたものではないけど、アクアオーラで癒やす事にした。

そしてカバンを漁る。地図と方位磁石はあるけれど、目安にできそうなものはここにない。
お金はない。食べ物は……なぜかたくあんが1枚なくなっているだけだ。

思わずつぶやいたが、それだけで激痛が走る。
口の中が切れているのだろう。自然治癒が早まってるとは言っても、しばらく何も口にしたくない。
他は、手を付けられた様子もない宝石箱。魔法で防腐処理の施された水にタオル。
あとは……家の鍵が2つ。……鍵？

ふと思い出して、荷物を再びまとめて背負うと、金属の鍵をくるりと回す。
宝石の光に包まれると、引っ越す前の自分の家に戻ってきた。
まだ引き払ってなくて、よかった。
自室に入ってドアの鍵を閉めると、すぐ、ふらりと倒れこむ。
意識はあるけれど、身体は限界。

日が差し込む。昼に帰ったはずなのに、日は高い。よく見れば月も浮かんでいる。
全然眠れなかったか、丸一日眠ってしまったか。
それはどうでもよくて、ただべたつく私の身体が気持ち悪かった。
そんな風にしかできなかった私の力量が嫌になった。
赤黒く染まった宝石を見るのも嫌だった。

……え？
閉めきったはずなのに、どこから？
というより……

くるりと寝転がって、背を向ける。
……と、後ろからふわりとした感触で抱きつかれる。

言葉では強がっていても。

傷だらけの身体を抱きしめられていては、そんなのはすぐにバレてしまう。

しばらくの間、無言だった。
ぎゅっと抱きついてくる月の女神の暖かさに、私は泣いていた。
こんな自分は嫌だけど、こいつは初めて会った時から変わらない。
自分の力量が嫌だけど、もっと力を付けようなどと、こちらの心境も考えずに言ってくる。
……なんて自分勝手なんだろう、私もこの駄女神も。

どうせ自分勝手、なら。
分岐：最大HP以上にオーバーキルされていない→成功！
自分の世界の神様に全部委ねてみよう。自己嫌悪しないように強くなろう。
その力で人斬りに堕ちたりしないような心の行き先を選ぼう。

……抱きまくらじゃないんだけどなあ。

昼に起きてるような奴じゃないのに、この女神は。

きらきら宝石を大事にしまって、ほうっと一息。

純度の低いガーネットとおぼしき石片をいくつか空中に浮かべて、
並び方をさっさっと組み替えて遊んでいる。

ほら、と自分の目を指差してみせる。
よくよく見ると虹彩に見える部分が青色の模様になっている。

1D20 = 10 ( 10 )