あぁ冷たい。
寒くてさむくて、心まで凍りついてしまいそうだ……。

冷気を宿した虎の爪が、何度も何度も容赦なく僕を斬り裂く。
天使の加護による癒しの力と、セリーナが必死に唱え続ける回復魔法のおかげで何とか持ちこたえてはいるものの、
少しでも気を抜いたらそのまま凍りつくか、倒れてしまいそうだ。

耐え続けているうちに、虎の爪に宿る冷気が薄れていく。
魔力が尽きてきたのだろう。
何とか耐えきった事にホッとして、反撃に転じるべく、寒さに震える手に力を込めて斬りかかろうとしたその時。

アップルさん『ップルアアァァ嗚呼嗚呼嗚呼あぁぁッ！！』

すごい掛け声と共に、恐ろしい形相のアップルさんが突進してきた。

吹き飛ばされて、風に舞う木の葉のように身体が宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられるように倒れ伏す。

寒さと痛みで意識が朦朧とする中、最後の力を振り絞ってセリーナに伝える。

アップルさん『工夫がねぇなぁ工夫が。もっと面白く倒れやがれ。』

薄れゆく意識の中で、ろくでもない要求が微かに聞こえた……。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

暖かい、とても暖かい……。
手が、全身が、春の陽気の中にいるように暖かい……。


気がつくとそこはベッドの上。
ふかふかの布団の中はとても暖かくて心地よかった。

ベッドの脇から声がしたので、ゆっくりと顔を向ける。
ホッとした顔で微笑みながら僕を見つめているその人は……。

見間違えるはずがない。
僕が誰よりも慕い、誰よりも尊敬する兄の姿が目の前にあった。

心配そうに僕の顔を覗きこむ兄様。
照れくさくてつい顔を少し背けてしまったが、すぐに向き直る。

目覚める前から特に暖かく感じていた手は、兄様がずっと繋いでいてくれていたようだ。
僕の言葉に、兄様は静かに頷く。

ぼつりと呟いた小さな疑問。
そんな僕の言葉に、兄様は小さく微笑んだ後、

真っ直ぐな目で僕を見つめながら、力強い言葉で答えてくれた。

強くて優しくて格好いい自慢の兄様。
僕はいつでも、兄様のようになりたいと強く思いながら、兄様の背中を追いかけ続けてきた。
いつも側にいてくれるのに、遠すぎて追いつけない兄の背中……。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

暖かい、とても暖かい……。
全身が、春の陽気の中にいるように暖かい……。


気がつくとそこはベッドの上。
幾重にも重ねられた毛布は少し重くはあったものの、とても暖かくて心地よかった。

ベッドの脇から声がしたので、ゆっくりと顔を向ける。
心配そうな顔で僕を見つめているその人は……。

兄様ではなく、セリーナだった。
あれは夢だったのだろうか……？

そう言って微笑むセリーナ。
その笑顔にもどこか力がなく、疲労の色が見える。
……そういえば、寒さだけではなく、身体中の痛みもほとんど感じなくなっている。
僕が気を失っている間、セリーナがずっと回復魔法を唱えてくれていたんだろう……。

僕が倒れてしまったのにこうしてっ二人とも助かったのは、運よくセリーナが動ける程度の負傷で済んだ事と、セリーナが上手く逃げてくれたおかげだ。
あのまま、森の獣に食い殺されてしまったとしてもおかしくはない状況だった。

セリーナの言葉に反論しようとしたが、それも予想通りと言わんばかりにセリーナが次の言葉を続けて僕の言葉を遮る。

きつい口調ではないものの、反論は許さないという力強さを感じる言葉。
僕は大人しくその言葉に従う事にした。

セリーナが隣のベッドで横になって目を閉じたのを確認すると、僕もゆっくりと目を閉じてそのまま眠りについた。

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