死に損ない達は声無き声を上げ襲い掛かってくる。
しかし、その姿は正しく“生き損ない”だった。その動きに生彩は無くただ泥の様に遅々とした歩み。
陣形も無く、あのラズロと名乗った青年が後列で微笑んでいるだけだった。

迷う事無く先手を取る。
穂先を下げた構えはそのままに一歩を踏み込み、それを切欠に突進へ移行する。

音楽を口ずさむ。それは私の戦いを支える根源。
思考と身体を調律する戦歌……神器（リズム）。

私は歌う、自らの戦いの歌を。
この場所に来て初めて、自らの歌を謳い上げる。

―――レクシーダ・槍術/脚術技能・発動・突撃・成功！

加速された思考が最適な動きをシミュレートする。
強化された身体は正確にその軌跡をトレースする。

それによってもたらされたのは圧倒的な速度。
刹那に間合いが詰まる。

私は更にリズムに乗り、テンポを上げる。
下げられた穂先を身体の左側一杯に引き絞り、そのバネを利用して右側に振り切る。

―――レクシーダ・槍術/腕術技能・発動・薙ぎ払い・成功！

槍を道服を着たキョンシーに叩きつける。
絶大な勢いを持った槍を、キョンシーはまともに受けた。
槍は止まらない。ほんの僅かな抵抗だけを感じつつ、強化された筋力でそれを振りぬいた。

ごしゃあ

という音がどこか遠くに聞こえ、キョンシーが吹き飛ぶ。
それを視界の端に止めつつ、身体の動きは止まらない。

私は謳う。

振り切った槍を無理に止めることはせず、そのままの勢いを持って一回転。
まるで舞踏の様にトーンと一度だけステップを踏んで、横向きの慣性を前へと換える。

―――レクシーダ・槍術/脚術/腕術技能・発動・連続突撃・成功！

そうすれば、ほら。目の前には次の敵（グール）が居る。
慣性が螺旋を描き、捻りを持って突き出された槍へと辿り着く。

―――レクシーダ・槍術/腕術技能・発動・捻り込み・成功！

圧倒的な破壊力が篭められた槍は存分にその力を撒き散らし、グールをあっけなく打ち砕いた。

視界の隅で後列に控えたラズロが動いた。
死に損ない共が周囲の牢屋から這い出し再び徒列を組む。

私は微笑み、さらに高らかに歌を謳い上げる。
思考と身体が更に加速するのが分かる。

ええ、付き合ってあげましょう。
この槍が―――貴方に届くまで。

フィーリと紹介された彼女が現れるといつの間にかライアーの左手には鎖が巻き付いていた。
黒い、黒銀の鎖が。
フィーリと名乗る少女は半透明で幻想的で、どこか目の前の黄金の瞳を輝かせるライアーよりも底がみえない。

少女がしゃべっている間にライアーがレクシーダへと近づいて、

黒い鎖が、レクシーダへ近づいて――

少女の態度の急変に訝しそうに眉を顰め

男はレクシーダをじっと見つめた

ばつの悪そうな表情でグレンは少女にそう語った