「諦めは良い方です。諦められなかった物は目の前に一つだけ」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――― 瀕死の兵





コノエの朝の日課といえば鍛錬である。朝食の下拵えを済ませ、楽な衣服に身を包み女王が起きるより前に外に出た。
まだ日も昇っておらず空気は冷えに冷えている。日を遮り留める物のない枯れた土地は温度に素直だ。
薄っすらと汗をかくまで。そう己に課しているコノエは白い息を吐きながら走り出す。女王はまだ夢の中。

太陽が顔を出した頃、元いた場所に戻ってきたコノエは奇妙なものを見つけた。正しくは自分の衣服である。
更衣室代わりの簡易天幕の前に置いておいた籠入りのそれがもぞもぞと動いていた。
小さなヒトが四つん這いになっているようなシルエットだ。敵意は感じられないため軽く汗を拭き取りながら近づく。
あと大股一歩、というところでずぼっとそれが顔を出した。

深い青の瞳に弾むような高い声。淡い銀灰色の髪は後ろで軽く結わえられ、毛先が服の山から飛び出ている。
幼い。それこそ走れば転びそうな体型であるにも関わらず、豊満な胸を備えていた。

ふわりと浮かび上がる矮躯。背中には小さな翼が生えていた。この大きさではまず飛べないはずなのだが苦もなく、雲のように。
水色のワンピースに膝下までのブーツ。汚れることを想定しているかのように簡素な作りだ。
このくらいの年齢ならもう少し華美、とは言わずとも可愛いものを好むだろうに。
髪は思いの外長い。垂らせばコノエと同じように踵まであるだろう。しかし風もないのに宙に漂っている。
そのままどこかに飛んで行くのかと思いきや、横に立ってコノエを見上げたまま動かない。
いや、動いた。脚に抱きつきすんすんと鼻を鳴らす。幸せそうな表情で。

最早人が増えるのも慣れたもので、女王は朝食を味わう作業に戻った。

ちょっと涙目になりながらの主張。必死に見上げながら怒る姿は既に滑稽と言うより、子供の癇癪そのものである。

だが、怒りつつも、やはり好奇心が先に立つ模様。

純粋な好奇心だけで聞いてるのがわかるまっすぐなまなざしで問い返す。
さっきまで怒ってたのを忘れたかの様な振る舞いは、流石は子供と言ったところか。