「――さて、と……
　とりあえず認められたとなると、
　早速一揆に参加してとなるのだけど……」
支給品と一緒に同封されていた地図を広げる魅月。
目的の場所に行くまでに色々ルートがあり、
それぞれのルートでは兵士だけではなく、
野生の生物や魔物にも気をつけないといけない事が分かる辺り、
危険性はそれなりに高いらしい。
単騎で駆け抜けるのもありといえばあり。
しがらみがない分その方が気楽ではあるのだが――
(一揆に参加するとはいえ、
観光目的なのよね……)
だと、すれば――
やはり旅は道連れ世は情け。
そう魅月は考えて、
道連れとなる旅仲間を探す事に決めた。
と、いっても、
一揆の手助けはするとはいえ、
自分の観光に付き合わせるのだから、
相手は選ぶ必要がある。
元より、同じような観光目的で来ている者、
一揆自体に興味がないもの。
からかっても良い相手――
もちろん、本気で一揆に参加し、
どうにかしてあげたいという人間の手を貸すのもいいのだろうが、
それは自分からではなく、
相手からと考えている。
しかし、魅月は一見するとか弱い上に、
見える人間にとっては近づきたいと思うような存在ではなく、
正直な話、
得体が知れない人間でしかない。
そんな魅月に関わろうとする人間はいるのかもしれないが、
仲間にしようと考えたとしても、
真っ先に来るような人間ではない。
それ故――
(……私から探す。
それしかないわね。
まぁ、失敗しても……
どうせあぶれる人がいるし、
それをスカウトすれば――
となるとまず探すべきは――
……知り合いかしらね。)
魅月は、自分から仲間を……
特にかつて全ての過去の集まる島で出会った人間を探す事にした。
といっても、見渡した限りではかなりの人数がいる。
一人一人確認して探す手もあるが、
正直な話……この中から知り合いを探すくらいであれば、
適当な人を捕まえて交渉した方が早いだろう。
だが――
少なくとも魅月に限っては話は別である。
幽霊を放ち、斥候として借り出して、
見知った顔を探す。
その中に何人か見知った顔を見かけるが……
「――幽霊を食べるのはいいけど、
　食べる相手は選びなさいね。」
「――？」
「小首傾げても覚えてるでしょう？」
「ばれたか。」
その中の一人がいつの間にか自分の後ろに居る事に気づく。
否、いつの間にかというのは正しくはなく、
魅月の事を先に見つけて駆け寄って来ていただけだ。
ただ、その目的は魅月という久しい知人にあったからではなく……
「――」
無言で魅月を見上げる幼い目は一つの事を訴えかけている。
それを察するように魅月は懐から板チョコを一枚取り出した。
「目的はこれでしょう？
　エモさん。」
「わーい！
　いつもありがとう！」
板チョコを受け取ると喜んで食べ始める少女。
――ボロボロのポンチョを纏い、
無邪気に板チョコを食べている彼女はかつて魅月と共に旅をした仲間である。
名前をエモーション・イモータル。
通称はエモ。
共に旅した島で生まれた感情の精霊のような存在。
エモを平たく表すとしたら――
「でも、もっとたべたい。
　もっとちょうだい。」
――とんでもない食いしん坊である。
どうせエモの事だから、
一揆と聞いて、
食べ物が食べれないなんて絶対に許せない！
……とでも思ってるのだろうと魅月はあたりをつけて、
エモへと話しかける。
「どうせ食道楽しながら、
　其の邪魔になる人をぶちのめすとでも思っているのでしょう？
　……よかったら一緒に行かない？
　当てはまだないのでしょう？
　折角だから後二人ほど捕まえて、
　四人集まって楽しく、ね。
　――どうやら一揆の参加要項……
　ってなんでこんなものも支給品に……
　まぁ、いいわ。
　それによると、一グループ四人までみたいだし。
　……ま、私も観光がてらだから丁度いいと思うけれど？」
――飴玉をエモへと差し出す魅月。
それを喜んでエモは受け取ると……
「うん、いいよ。
　みつきといっしょだとおいしいものたべれるだろうし、
　いざとなればゆうれいがいるからこまらないし、
　ちょうどいい。」
魅月の提案に快諾する。
相変わらず分かりやすいと、
魅月は苦さと微笑ましい気持ちが混ざった笑いを浮かべると、
そっとエモの頭を撫でた。

――丁度その頃、
そんな二人の様子を微笑ましく見守っていた少女がいた。
大きな斧を携えて、
その姿はまるで葬送人。
アルネス・ウェルネイト……通称アルネスと呼ばれる彼女は、
魅月とエモの様子を見て、
いいなぁ、と思っていた。
なんとなくエモの姿が捨てられた子猫のように思えたからだ。
特に目的も無いし、
今なら自分も撫でれるのではないか。
そんな好奇心を刺激されたアルネスは、
ゆっくりと二人の方へと歩みより、
エモへと手を伸ばす。
今なら撫でれるとアルネスは思ったからだ。
だが、
そんな淡い願いはかなう事は無かった。

――カプリ

アルネスの伸ばした手にエモが噛みついたからだ。
「……」
「はむはむ……」
噛みついたままそのままアルネスを食べようとするエモ。
「え、何この展開。」
「もぐもぐ……」
そんな様子を見てクスクス笑う魅月。
魅月は当然助ける気など毛頭ない。
「え、ちょ、笑ってみてないで助けてくれない……
　っていうか、なんかドンドン……
　え、あるぇー、おっかしいなー。
　なんでこんな小さい口に私の右腕の半ばまで入ってるのかなー？
　いや、ほんとマジやめてください、
　食べ物じゃないんで、
　いや、ちょっと出来心で撫でたかっただけで、
　たーすーけーてー！？」
必死になるアルネスだが、
エモは食べる事はやめない。
魅月は当然の如く……
「まぁ、大丈夫、
　もうちょっといけるわよ、貴女なら。」
エモの表情をじーっと見ながら傍観を決め込んだままだ。
「酷くない！？
　っていうか……なんか見覚えがあると思ったら……
　あれ、エモさんも来てたっていうか、
　私の事覚えてないの！？
　いや、食べ物じゃないってあれだけ教えたよね！？」
「あら知り合いなのね。
　……世間は広いわねぇ。」
「もっきゅもっきゅ……」
「いや、ほんと助けて下さいお願いします。」
明らかに助ける気が無い相手。
かといって周囲にこちらに関わろうとする気配はなく、
必然的に助ける気が無い相手である魅月に頼らざるを得ない。
それを分かって、どうしようかと魅月は微笑を浮かべ――
「じゃ、今回の一揆に私観光目的で参加するけど、
　一緒に行かない？
　丁度後二人探していたのよね。
　承諾してくれるならやぶさかでも――」
「するする！
　一緒に行くからほんとマジ助けて下さい！
　ぎゃぁぁぁぁぁ、肘の所まで喰われたーーー！？」
そうこうしているうちに、
流石に余裕が完全になくなり、
必死で暴れるアルネスだが……エモは離れない。
だが、
「という訳で彼女も一緒に来てくれるようよ。
　離れてあげなさい。
　ああ、私は伊賦夜魅月。
　よろしくね。」
もう良いわよとでもいうかのように手を叩きエモに語りかけると、
すんなりと離れるエモ。
「わかった。
　あいかわらずおいしい。」
「美味しくないから！？」
「とにかく、さくせんせいこーいえー」
「ええ、お疲れ様。」
「え、何この流れ。
　え？
　はめられた？
　いや、いいけど。
　どうせ暇してたし。
　しゃ、釈然としない……
　あ、私はアルネス・ウェルネイト。
　えーと……えー……
　よろしくしないと駄目？」
アルネスが三人目の仲間になると知って、
手を合わせ喜ぶ二人に、
完全にはめられた事をしって肩をがっくり落とすアルネス。
そんなアルネスに……
「駄目。よろしくね。」
「よろしくー」
満面の笑顔で答える魅月とエモに、
うん、もう諦めたといわんばかりに、、
肩をがっくり落とすアルネス。
「うん。よろしく……
　えーと……
　その手加減……してくれないかな。
　いや、マジで。」
「善処するわ。」
そういってアルネスの手を取って半ば無理矢理握手する魅月。
「はぁ……
　あ、私は見ての通り斧使いなんだけど、
　魅月の獲物は何？
　なんも持って無いように見えるんだけど、
　魔法使いか格闘家か何か？」
「魔法も使えないし、
　格闘は出来るけど大した実力じゃないわよ。」
「え？
　えー、まさか戦闘手段がないとか……？
　いや、私とエモさんが居ればなんとか……」
「大丈夫よ。
　ねぇ、エモさん。」
「うん、だいじょうぶだいじょうぶ。」
完全に諦めて仲良く一緒に行こうかと気を取り直すアルネスだが、
しょっぱなから魅月の得体のしれなさに、
どうしてこうなったといわんばかりの顔をする。
エモが魅月を信頼する所をみると、
エモの実力を知っているアルネスとしては問題ないとは分かるのだが……
釈然としない気持ちばかりはどうしょうもなく、
アルネスの苦悩はますます深まっていくのだった……

――また、時を同じくして――
そこには一匹……否。
一体のぬいぐるみが居た。
ペルチェと名付けられた、
白黒兎のぬいぐるみは、
一揆に参加しようと決めたが、
可愛がられても一人の参加者と気づいてもらえず、
仕方ないから一人で初めて、
人の多い所で頑張る事で誰かと一緒にあろうとしていた。
だが、そんな時。
ペルチェは不意に奇妙な感情を見つけた。
一つは自分と似たような存在の感情。
一つはとても人間らしく、まっすぐで純な感情。
そして最後の一つは――
数えきれないほどの無数の感情。
気になったので、
ペルチェは目を凝らしてその感情のある方向をみてみると、
三人の少女達がいた。
やりとりをずーっと見ていると、
どうやら純な感情を持つ少女が、
他の二人からからかわれているらしい。
「……楽しそうだウサ。」
そんな三人の様子をみて、
ペルチェからそんな声が漏れ出た。
ペルチェはぬいぐるみであり、
自分に向けられた感情を糧にする。
溢れるばかりの感情と、
自分に近い存在がいる其処は、
自分にとってもとても居心地の良い物のように感じられた。
混ざれるものなら混ざりたい。
幸いにもペルチェはぬいぐるみ、
きっと少女達は自分を可愛がってくれるだろうとも思う。
だから、
断られるのではないかという不安と恐怖を振り切って、
ペルチェは三人の元へと向かい――
「ねぇ、良かったらペルチェもつれていってくれないウサ？
　４人までなら組んで良いらしいから、
　良かったらペルチェを最後の一人にしてほしいウサ。」
頷いてくれることを願うかのように、
三人……魅月達に話しかけるペルチェ。
その声に三人はペルチェの方を見て――
「良いわよ。」
「うさぎさんおいしそう。」
「ぬいぐるみ？
　っていうか……
　魅月さんは承諾早過ぎない？
　いや、反対はしないけども。
　後一人探そうとしてた所だし……
　そして、エモさん……ぬいぐるみ食べれないから。
　食べたら駄目だからね！？」
――ペルチェが案ずる要素など何も無く、
問題なく受け入れられた。
「で、ぬいぐるみさんの名前は？」
「ペルチェっていうウサ。
　これからよろしくウサ〜♪」
「ペルチェね。
　よろしくペルチェ。
　私は伊賦夜魅月よ。
　呼ぶときは魅月で良いわ。」
「えもーしょん・いもーたる。
　なんかおなじかおりがするおいしそうなぬいぐるみさん、
　よろしく。」
「で、私がアルネス・ウェルネイト。
　アルネスって呼んでくれればいいよ。
　……なんだろう。
　この三人の自己紹介の順番がヒエラルキーになってる気が……」
「気のせいよ。」
「そっか。
　気のせい……じゃないよね。」
「気のせいよ。」
「……ソウダネ、キノセイダネ。」
お互い自己紹介をする四人。
これで四人が揃い、
この四人で探索を進める事になる。
まだまだお互い知らない事も多く、
信頼も築ききれてはいないものの、
そんなものはこれから築いていけばいい。
さしあたって問題があるとすれば――
「――まぁ、真面目な話するけど、
　何、このメンバのカオスさ。
　えーと……
　エモさんと私が頑張ればいいのかな？」
少女三人とぬいぐるみ、
どう考えても戦力に不安がある点だろう。
しかし、己の力に自信があるアルネスがそう締めくくって、
これから先の旅の戦い気を引き締めないとと、
意気込む。
「ペルチェも戦えるウサよ？」
「私は戦いは苦手だけど大丈夫よ？」
エモの保障があるとはいえ、魅月はこの調子だし、
ペルチェにいたってはぬいぐるみなのだからさもありなんといった所である。
「――ま、それでも力には自信があるしね。
　耐久力にも。
　守ってあげるから安心して。」
「――期待しているわ。」
まぁ、楽しく自分が頑張ればといいかと、
不安を振り払うアルネスと、
不安なんて欠片もない三人の戦いの旅が幕を開ける――