捉えられた心臓。
とおのく、とおのいてく

まずは視界が
それから意識が

沈んでいく

深くふかく水底に
あたたかくて包み込んでくれる何かにすべてを委ねて、おちていく

そして、入れ替わるように泡のようにすり抜けて浮かんでいく――

――

――――


浮かんでいこない
すれ違う時に、とても＿＿そうな＿＿＿がない







ああ

ああ！




なにも、ない

ただ私が、底に背中をあてただけ。
なにもいない



ここには、いない

わたしには、いない



わたしは、＿＿じゃ


＿＿＿＿じゃ







＿＿＿じゃ、な――










私の足から力が抜けることはなく、
気が付いた時にはもうレンツォさんは槍を収めていた。

どうして、こうなったんだっけ？
真ん中を突かれて壊れてしまったファスナーを撫でながら考えても、『よくわからない』
……どうして、私はあんなに苦しかったんだっけ？

……あれ？私、苦しんでたっけ？

ううん、なにもなかった


そう、『何もなかった』


もしかして、怒られていたのかな？
だったらもっと、頑張らないと。

怒られたなら、反省しないといけないのに。
どうしてだろう？『つらくない』









まぁ、いっか？



私は役に立てるように、できることをするだけ。



「行けるな？」

レンツォさんの声に、引き戻される。
嫌な予感がして、避けた道。
何かいるなら、邪魔をするなら
取り除くのが私の『今できること』


何だかよくわからないけど、綺麗な金髪のお姉さんも手伝ってくれる……の、かな？
うん、一人じゃない。
頑張ろう！

ほんの一歩だが、彼女は私の方へと歩みよってくる。
私はそれにほんの少しだけ驚いたが、引くことはできなかった。
そうしたら、優しい彼女の思いを踏みにじる事になるから。

名前を呼ぶ。私の事を想ってくれた彼女の名前を。
彼女の中にある何かと、『違う』と否定してくれたシセを。

そうして私は、右手を彼女の方へと差し出した。
怯えを押しとどめて、私に近づいてくれた彼女に。
私の『呪い』を、もっと受け止めてほしくて。

今はこんな言葉くらいでしか、感謝を表せないけれど。

シセの表情に少し戸惑いを見せる。

そっと手を差し出して言う。

世界を瞬きに引き裂いて惹き咲いた、少女だか少年だかよく分からない人物は。
まるで今起こった事など何ひとつ存在しなかったかのように、
或いはたった今夢から覚めたばかりの心地良い朝であるかのように、
ぐいと一つ伸びをして、それから君を見遣る。

深い藍の左瞳は先刻まで見上げていた夜を宿しているようで、綺麗だった。
それだけに、片目を隠している符の存在が際立つ。
じぃ、と、覗き込む。交錯する、金砂の青。

停止。

なぜか　おこられた。