水辺を吹く風に、少しだけ冷たいものが混ざりはじめた。
季節は移ろいゆくまま、気がつけば秋を迎える時期になったようだ。
彼女の故郷を経ってから幾日、途中逸れる道はあれど、只管に水辺を進んでいる。
食生活は材料が豊富なお陰か上々で、進軍も――今のところは――順調に来ていた。

ただ、戦況は良く解らないままだ。早ければ王ももう打ち倒されそうなものだが、
そういった様子もなく、道中、同じ道を行く同業にも特に変わった様子はないようで。
ひとつ気になる事があるとすれば、人を襲う人が居ると、“あちら側”ではないその存在だけ。

「…ヌシ、か」

彼女から聞いた、この水辺を守る存在の話を不意に思い出す。
何処の世界にもその地を守り、訪れる人々に打ち倒される魔物はいるものだ。
厚い布に覆われた自分の首元に触れてみる。そこを軽く撫で擦ってから、手を下ろす。

物思いの時間はそう長く続かない。
そろそろ食事の時間だ。

彼女が祖父から聞いたという話に、首を傾いで。

途中、逸れる道はあれど川はまだまだ続いている。
先の方へと意識を払いつつ、木の切れ端を拾って火にくべて。

塩茹でにした巻貝に楊枝を刺して、くるくると身を抜き取っては、ぱくり。
合間に甘露煮の鍋の様子を見て、煮詰まりかければ湯を足してやる。
けど、概ねは目の前の食事の方が優先のようで、食べる手はほとんど止まらない。

涎が落ちそうになって、慌てて口を拭う。

先日作ってもらった新しいケープ、その裾を持ち上げて。
軽くて柔らかな着心地が気持ち良いようで、フードの部分に頬を当ててみたりするのだった。

まじまじと彼を見上げたまま、首を傾げる。

思いがけない質問に、一拍の間が開いた。