この世界に来て何度目の戦闘だろう。
戦闘のたびに気づかされることがある。
それはつまり、それだけこの世界の戦闘が異端であるということだろう。
第一に、技を使うのはエンブリオだが、それを行使するのは使役者である私だという点。
……意味が分からない。
言い直そう。
私の合図でエンブリオが技を使う。
その技は私の身体を通して発動する。
そういうことだ。
別段エンブリオ自身が技を発動させることができないわけではない。
事実敵として現れるエンブリオたちは自身の身体で技を行使する。
だが契約したエンブリオの使役者が使う方が効率が良いらしい。
平たく言えば威力が違う。
これはエンブリオが成長すればするほど顕著になる。

第二に、エンブリオの成長とともに使役者である私も強化されてる点。
これまで何年も鍛錬を重ねてきたこの身体。
動きの速さも強さも……弱さも知っている。
だが、最近自身の知っている以上の強さを発揮している。
自分で言うのもなんだが、すでに私の成長のピークは過ぎている。
それを考えればありえない早さで、身体能力が上がっている。
エンブリオの成長と同期していることに気づくのはそう難しくはなかった。
エンブリオにも個性があり、成長具合に偏りがあることも知った。
この肉体強化とでもいうべき現象は、エンブリオとの契約を切ればどうなるのだろう。
多少気になるところだ。

第三に、戦うほどにエンブリオとの意志疎通がスムーズになっている点。
これは多分に推測が含まれる。
そのエンブリオと共闘するほど……いや戦闘経験が多いということはより成長したエンブリオであるともいえるわけだから……。
おそらく……エンブリオが成長するほどそのエンブリオと使役者との意志疎通がスムーズになる。
私の合図とエンブリオの技の使用にタイムラグを感じなくなっている。
これはある意味戦闘において肉体強化よりも重要かもしれない。
攻撃すべきタイミングで攻撃できる、この当たり前のことを為せるからだ。
いずれはアイコンタクトのみで技を使えるようになるだろう。
あるいはテレパシーのように言葉にださずとも通じ合えるようになるのかもしれない。
ただ……長くこの世界に留まることのない私がそこまで到達することはないだろう。



気づけば戦闘は終わっていた。

今日の私は最低だ。
戦闘中にのんびりと考え事をし、惰性で戦っていた。
原因はわかっている。
セイレーン以降何一つ情報が手に入らないことにイラついているのだ。
そしてそこから目をそらし別のことを考えることで逃避していた。
積極的に情報を手に入れる方法はなく、ただ運任せのようにこの地をさまよい、手がかりを探す。
まったく雲をつかむような話だ。

足元へ声をかける。
足元のナニカは抗議をするかのように横移動を繰り返す。

リアンはそう言って探索品の割り振りをしている三人に向かって歩き出した。