「……人斬り？」
　引率というか出稼ぎというか、利害の一致によってイカへの道案内という仕事の為に、この世界で出会った面々と離れているところに飛び込んできたのは、別行動中の面々の危機の情報だった。
　どうしようもなく眉間に皺が寄るのを止められない。
「よりによって、お嬢さん方たちだけでの時に出くわすなんて、間の悪い……」
　人斬りがいるという噂は聞いていたし、被害が出ているという情報も入っていた。こちらに来る前の奥座敷で話していた内容の中にもその件があった覚えがある。
「フラグ、というやつかな……こんな物騒なもの、回収したくはなかったのだけど」
　苦虫を噛み潰したような表情になっているのを自覚しながら、通信役に一言を残して顔を上げる。とりあえずはサクロのに報告するべきであろう。男性陣二人にも伝えておいた方がいいか。
「……よりにもよって、しかも一番手強いっちゅー相手やって……厳しい話やの」
　駆けつけられるのならばすぐにでも行きたいが、今は別行動。特に現在は『仕事』として水辺の道案内を仰せつかっている身である。責任者としては中途半端に投げ出すわけには行くまい。
「勝てるに越したこたないけど……せめて、酷い怪我せんように、……祈るしかないねんなあ」
　どうせ危険に出会うなら、この身であればよかったのに。
　自分ではない『もうひとり』を守るために、あらゆる手段を以て防御に特化したひ弱な身体を見下ろしながら嘆息する。
「まだ、力が足りひんっちゅーこっちゃの」
　己だけではない、手が届かない場所でも、守れるように。
　やるべきことを脳裏に思い浮かべ、扇子を握る手に力が篭った。