訓練は欠かさない。

ほんの少しの運動と、銃の手入れと。
射撃は弾を無駄打ちすることに気付いて最初の日で止めた。
代わりに始めた的当ては、訓練には少し足りないと思いながらも
結局のところ何もしないよりはマシ、という結論に至り。

朝の静かな時間は、そうして過ぎていく。


それは、誰かと行動を共にしたところで変わることはなかった。

なかった、はず。なのだが。





ばさりと、羽の音がした。

「リッツ？」

音につられるように振り返る。

「あら、まぁ」

目が合ったのは――幸いにも、知った顔。



「邪魔はしませんから」とのんびり告げると、彼女はそのまま
近くの樹に凭れ掛かり、結局一通りの日課を終えるまでそこに居続けた。

楽しい、のだろうか。

日課の仕上げとなる銃の手入れを行いながらそっと伺った彼女の表情には、
然して変化が見られない。
一見穏やかにも思えるが、自分の知っている彼女の顔は、大体いつも
これと同じだったような気もする。

（読めない人、だわ……）

眉を顰めると視線を手元に戻し、手入れを再開する。

戦うことに慣れた者ではない、ように、思う。
纏う空気が自分とは違う。それだけの理由だけれど。

「あぁ、そうだ」
「…………なに？」
「そろそろ朝ごはんにしましょう。幽ちゃん、呼んできますねー」
ぽん、と両手を打てば、それだけを残してあっという間に姿は見えなくなった。
「え、ちょっと……」
引き止める間もない。
恐らく、声が間に合ったところで彼女には届かなかっただろうけれど。



飴李は、少し変わっている。
その形容が正しいのかはわからないけど、少なくとも。

――少女の認識がそうなるまで、大した時間は掛からなかった。

きょとりと瞬いた後、そう、勝手に納得をして。
冷淡にも見えそうな声音と表情も、少女自身似た色を持っているからか、普通に受け止めて。

……あなたが知っているものと、重なる？　と首を傾げた。
『女子高生』を、知らないようだったから。