我々の旅は快調であると言えよう。
今後の戦力の強化を考えるに、少しでも多くのエンブリオと契約を結び、鍛練する必要性がある。

行動を共にする者もそれは同感のようであった。
決め手は、今回新たに加わった少年であるとも言えよう。
「強くなりたい。」
彼は至極単純に力を求め、我々がそれに呼応した。

私たちの実力は予想以上についていたのかもしれない。森林に挑む前は敗戦すら覚悟していたが、終わってみれば全員、傷の多少はあれど最後まで自らの二本の足で立っていたのだから。
私たち全員の勝利と呼んで良いだろう。

これで私も彼と共に、雪辱を果たすことができたろうか。



だが、成長を喜んでばかりもいられないようだ。


彼との契約の関係においては、私が彼の下に属する形である。
そもそも私の命自体が彼の生命力に依存し、
また肉体を確固とした形で持たない私が存在を保つために、
いくばくか彼の肉体を憑代として借りている。

私と彼が出会った時、私は死ぬ寸前であった、というが
私自身がアストラル体に近い存在である以上、
肉体的な死は無いため、恐らくはきっと消滅、という方が正しい。
彼と出会っていなかった場合、
私はあっと言う間に霧散して、即座にエネルギーに還元されて終わっていただろう。
肉体に依存しない存在は、肉体が朽ち、分解される工程を要さないため
はるかに世界への循環が早い。

私は自らが散じて消滅するのを防ぐため、
彼という肉体の内側に潜み隠れ、
彼の生命力を吸いながら今もこうして生きながらえている。
生命力を分け与えられてる…と言えば聞こえがいいが、
私のしていることはただの寄生に他ならないだろう。


そして寄生している側の私が、
今、何故か宿主である彼を押しのけて表層に現れてしまっている。
そういった状況である。


私と彼の力関係は先に説明したとおり。
私は彼失くして生きてはいけない存在となっている。
生命としての優先順位も彼が主であり、
肉体においては況や。
そのため、本来は彼に圧倒的なアドバンテージがあり、
私は精々彼の意識の片隅で囁き、揺蕩うだけの存在であるはず。

なのだが。

肉体の主導権がいつの間にか自分に移っている時がついた時は
流石に狼狽したものの、
慌てて意識の海から彼の意識に呼びかけると、
困惑こそしていたものの彼は健在だった。

「不思議なこともあるものでござるなぁ」
などと能天気に口にしている（実際には口に出せていない）が、
彼はこの状況に危機感を覚えていないのだろうか。

彼の意識に今の所問題は無いようなので、
その内また彼に戻るだろう。
あるべきものはあるべき場所に戻る。
本来の優劣の関係にやがて正される。そういうものだ。

だが、今回のこれで私と彼の同化が進んでいることに一抹の不安を覚える。
私の予想以上に、というか予想外に彼の自意識が希薄なようなのだ。

私という異物が存在しても、心身に大きく変調をきたさない彼の性質を
私は「柔和」と捉えていたが、どうもそれは誤りかも知れない。

それが何、とは形容できない。
何とは形容できないのだが、私はそれに少し恐ろしいものを覚える。

杞憂であることを、願うばかりである。

……ところで風早…。
考え込んでるところ、ちょっといいかな。

……ん。ああ。なんだろうか。

……どうして僕の服が溶けてるんでござろうか。

…………。






……何、気にするな、知的好奇心の産物だ。



…我らシルフが司るは風。
知性と思考の象徴であり、その性質は【不定】であり【動】。
常に何者にも縛られず、絶えず自由であることを望み、そう在る。

―――そういうことだ。



……まあ、出来心であったとは認めよう

どうするんでござるかこれ……。
既にパンディー殿に別の装備を作ってもらってるから良いとはいえ……。

………さあ…？

無計画すぎやしないでござるかね！？
自由と無策は別物でござるよ！？

…うん、やはり杞憂かも知れないな。

…うん？何がでござる？

いや…こちらの話、だ。