「やったぞ鳴丸君！ついにやった！」
部屋から出るなり素っ頓狂な大声を上げてのしのしと歩く教授を見て鳴丸は想い出す。
大学にいた頃、こうして部屋から出てきた教授を見ると皆が（特に女性は）一斉にその場から立ち去り、
そのさまを一部の学生は「モーゼの行進」と読んでいたものである。

そして当然、そこに居合わせてしまった鳴丸は大抵ろくでもない目に遭うのである。
警戒心もあらわに教授のようすを伺っていた。
「一体何です教授。僕が教授の喜びを分かち合えるとは思わないんですが」
「何を言うのかねこのムッツリスケベが。それよりも君！ついに私のエンジェルがLv30を超えたのだ！」

普段教授はムッツリスケベなどとクリティカルかつ直接的な物言いをすることはない。
あえて迂遠な言い回しを多用し屈折した物言いを楽しむのが教授の趣味である。
つまり今回はかなり興奮しているな、
などと分析しているのはあくまで傍で聞いているスラントであって鳴丸にはそんな余裕はなかった。
真っ赤になってどもり気味に否定しようとする鳴丸を完全に置いてけぼりにして教授はますますヒートアップしている。

「待ちに待った時が来たのだ。私はこの時のために一気に直接参加する方針を定めたと言っても過言ではない！
　さあ、至福の時を君も共に楽しもうではないか！」
話が見えぬまま教授は先に進もうとしており、
このままではわけもわからないままに致命的な局面まで連れて行かれかねないと思ったスラントが口を挟んだ。
「あの〜、で、結局何がおこるんです？」
「うむ！エンブリオ契約はその繋がりの度合いをレベルで測られているのはわかっているね？」
常識である。その段階に応じてエンブリオから力を引き出せ、使えるスキルも増えていくのだ。
スキルはLvで言うと5ごとに増えていき、30では
「あ。30って言うとスキルは増えなくて……」
「そうだっ！ついに私の天使ちゃんが完全に実体化するのだよ！」

そう、Lv30とはそのエンブリオとの繋がりが極めて強くなり、
契約者の力を借りて実体化することが可能になる段階を言う。
天使との契約時においても「聖的な存在を性的に汚すのは想像するだけでも興奮するな！」などとのたまった教授であれば
この喜びようも頷けるというものである。
相変わらず顔が赤い鳴丸も、今は別の方向の羞恥心で顔色が変わっている。


「よくはわかりませんがでは話を進めましょう。僕にはよくわかりませんが！」
「まあそう慌てるな鳴丸君。では早速実体化させるぞ……いでよ、我が天使よ！」
教授が精神を集中すると、部屋の中心に光が収束する。
拍子抜けするほどあっけなく、「天使」は姿を表した。
部屋の中央に浮かび、ほほ笑みを浮かべ、


―――侮蔑と怒りのこもった、冷酷な瞳で彼らを見下ろしていた。







戦車で遊びすぎて時間がやばいので次回に続く