［基本］OK.　［戦闘］OK.　［スキル］OK.　

夢を見た。
夢の中で満開の桜を見上げている。
ずっと、待ち望んでいたような、この時がこなければよかったような、少しだけ複雑な気分でそれを見上げている。

"綺麗だな。"

誰かに語りかける。
同意を含んだ返答が来て、なんだか安心した気がする。

"最期に見れてよかった。"

それは語り掛けるというより独り言のように、口から零れ落ちたような響きだった。


不意に、炎が辺りを塗りつぶした。
身を覆う炎は焼き尽くすような熱じゃなくて、まるで暖かい日の光のように体を包み込んでいく。気持ちよさすら感じて、なんだか夢の中なのに眠たくなっていった――



意識が深く深く落ちて行ったところから、急激に引き上げられるような感覚がやってきて、俊彦はパチリ、と目を覚ました。

「……」

上半身を起こしながら、部屋の隅を見上げるこの感覚には覚えがある。イバラシティの時間でいう所の二年程前。再び異能を使いはじめた頃。
ワールドスワップの、ハザマの戦いがはじまったばかりの頃。
その後さらに、悪夢として自分を深く苛んで――一度は海に身を沈める事となった、それ。

「あれは夢じゃなかったけど、じゃあ……」

あれは、フェデルタ――もう一人の自分――の記憶である事を今でははっきりと認識している。けれども、今はもうフェデルタと自分は別々の存在となった。
確かに、記憶や能力はフェデルタのものを多く引き継いではいるけれど、互いに繋がりはもうなくなっている。
では、この夢は何なのだろう？深層心理の奥にあるフェデルタが見せたてきたのだろうか。

「……」

二年前と同じように目覚まし時計を見れば真夜中で、寝直す前に水が欲しくなるところも同じだった。違う事といえば、家族がいないから大したもの音を立てる事は気にしなくてもいいという所くらいだろうか。
家族はワールドスワップによってごく自然に、そして巧妙にその存在を捏造されていた。その証拠に俊彦は両親の姿を見た覚えがない。
勿論、作られた幼少期の記憶などでは一緒にいた記憶がある。しかし、この二年間声を聞いたり料理を食べたり、置き手紙があったりはしたけれど、実際の姿は一度も見ていない。
そして、唯一実際にいた兄もまたワールドスワップによるアンジニティの住人であり、フェデルタと深く関係のある人物だった。その彼がどういう結論を導き出したのかも、よく知っている。
そして、実際、今この家にいるのは吉野俊彦一人だ。
キッチンまで移動した俊彦はコップを取りだして水をいれるとそれを一気に呷った。シンクにはいくつかの食器が溜まっている。今までは気付けば片付けられていたけれど、今はもう誰も片付ける人が居ない。
めんどくさいな、等と思いながら空のコップをシンクに置く。
ワールドスワップは、これから行われる。それを知っている自分はこれからどうするべきか――答えはもう、わかっている。
出来れば多くを助けたかったけど、そうする為には自分の両腕はあまりにも小さすぎる。
だから、とにかく、一番守りたい人を守ると決めた。

「……それで、いいんだよね」

誰かに確かめるように呟いた。当然、返事がないのはわかっている。兄弟も、もう一人の自分も、もういない。全て一人で決めるしかない。
それでも、生きると決めたから。
夢の中で見たあの景色が、真実なのかはわからない。
だけど、最後に、力を受け継いだ時に言われた言葉は間違いなく心に刻んだから。








　
　

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ENo.39 順 とのやりとり