［基本］OK.　［戦闘］OK.　

久津見天音は女子高生だ。

学校に通い、日々を過ごし、異能を持つ普通の一般人。
多くの生徒の中で特に目立たず、テストもクラスの平均点を取り続け、教室に花をいけたり放課後に掃除をする。
他のクラスメイトがそれらを変わりにやってくれるのならば、お礼を言ってすぐにその場をあとにするだろう。
そんな人間だ。
塾では窓際の席に好んで座り、出された課題にはうわの空で外を眺めていることが多かった。
部活動に打ち込む気にはなれず、ぶらぶらと街を徘徊するわけにもいかない。
かと言ってひとり、家に帰るのも退屈であった……要は時間つぶしの為の場所。
外から見れば成績の伸び悩む特進クラスのよく居るパターンの学生──だったのだろう。
暇があればスマホでいろんな物を撮ったりもした。
人であったり、風景であったり、自身であったり……画面の中に残る、時の止まった画像等は
彼女にとっては大きな意味のあるものたちであった。


彼女が持っていた異能に名前はなかった。
ただ、望めばその手の中に望むものが現れる。
望めば手の中のものが望んだ姿に変化する。

奇跡に近いような異能。

ただ
ある日『こうなりたい』と自分の未来の姿を望んだ時に、その考えは変わってしまった。
成長した体躯に、望む制服をまとった姿。まさに理想の姿に一瞬で成り代わった自身の姿がそこにあった。

──気付いてしまった

望むだけで何にでもなれてしまうという事の恐怖に。
今までの自分が、本当に自分であったのだろうかという疑問に。
自分だけでなく周囲の人々ですら、ともすればただの理想のものだったのではないのかという疑念に。

その日から奇跡はただの呪縛になった。


多くの人の中に埋もれ、最後に記録に残った時の姿から成長ができず、
"変化を望まない少女"は、そうやってイバラシティの中で普通を装い日々を消化していた。

---

こんな日はもう二度と訪れないだろう──。
そう思っていたけれど、結論としては後10回以上は目にする事になる。
正確な数は覚えてはいないが、とにかく多かった。


その中でも最初の話だ。
石畳の広場に面したボロっちい背の高い集合住宅に幼い頃のオレは住んでいた。
その日はやたらと広場に人が密集して、頭だけがみっちりと敷き詰められているようで……
その光景を部屋から目にしたオレは幼心ながらに何事か？と窓から身を乗り出して理由を探した。
何か楽しい事でも起きるのかと、多くの視線が向かう先にあったのは
役人に取り囲まれた高い台の上に置かれたギロチン。
黒髪で特に印象にも残らないような──おそらく男。が今から首をはねられようとしていた。

律法の国ともいわれたここでは、処刑はある種の見世物の意味合いが強かった。
国の力をひけらかす意図もあったのだろう。
見窄らしい罪人に対を成すかのように、上等な服をめした法官が冗談かという量の紙束を抱えて現れた。
大手を広げ読み上げられる罪状の数々はそれはそれは長ったらしく、
要するにこの罪人はいくつもの名と姿を騙り、かつてない程の罪を犯し、今から裁かれる。という事だった。
あまりに多くの名を持ち、本名がわからないため、罪人は、あまねく罪　または　ソレ　と呼ばれた。
正直な所、ピクリともしないソレがこんなに大勢に囲まれて、
大々的に処刑される程の事をやったのか……子供心ながらに疑問に感じていた。
がやがやと騒がしい群衆の頭の多くは、もうじき執行される裁きを見るために
皆が皆同じ方向を眺めていて異様な光景で。

法官の手があがる。
罪人に許される最後の時間。
先程までのざわめきが水を打ったように静まり、広場の視線が、見窄らしい姿が許しを乞う姿を見ようと一斉に集まる。

ザワッ──

かすかな動揺の声が中心から波立つように外へ外へと大きさを増しながら広がる。
確かにそこにいたはずのソレは断頭台から姿を消し、
変わりにこの場に似つかわしくないきらびやかなドレス姿の女性が法官の横に立っていた。
王妃…？王妃だ！と声が上がり場が混乱しだす。
当時は、本物の王族なんて見た事はなかったが、法官の様子を見るに間違いではなさそうだった。

何が起こったのか。その場に居合わせた多くの人間の誰一人も理解ができていなかった。

ゆっくりと手を広げ王妃が口を開く。
大きな広場なのに、妙にその声は鮮明に耳に届いた。

「飢えた幼子が目の前のたべものを盗まないと空腹で死ぬ……
　この場合、何が正しく、何が悪で、何が罪なのだろう？」

「ボクが……」

そう口にした瞬間、数多の双眸の前で煌びやかな王妃は一瞬にしてソレの姿になる。
このごまんという視線をかいくぐって行われる、手品の様な催しに一部からは疎らに歓声と拍手が起こった。
先程までの見窄らしい姿ではない。
大衆的で、ありきたりな普通の服を纏い、感情が乗らない淡々とした語り口で薄く笑いながら、話は続く。

「飢えた子にリンゴをあげたら、ボクから施しを受ける奴は悪だと…役人らに棒で叩かれていたけれどね。

　なんでだろうね？　見捨てたほうが良かった？　ねぇ……？」



「 キ ミ は ど う 思 う ？ 」



そう言いながら、横の法官へと1歩詰め寄る。




「ねぇ」

「紙に書かれた事以外は答えられないかい？」

「ねぇ」

「さっきみたいに高説を拝聴させてくれないの？」

「ねぇ」





1歩、1歩……最後には台の隅に追いやられた法官に噛み付けるほどの距離にソレは近づいて行く。
青ざめた顔で何も答えない法官。
何が起こったのかわからず、動けなかった役人達がやっと状況のまずさに気付きソレを取り押さえようと群がった。
折り重なるように飛びかかった瞬間に、膨らました紙袋を叩いたような破裂音がする。
群衆のどよめきがひときわ大きくなった。


「……ねぇ」

冷ややかで抑揚のない声がする。
いつの間にかギロチンの装置の一番上に居たソレは、汚らわしい物を眺めるように役人らを見下ろしていた。

「禄に答えられない様な奴が、ボクを裁かないでほしいなぁ。
　法だなんてさ、人が作ったのものだろう？
　結局は都合が悪い事を、法だなんて体のいい形で処理しているだけだしさ。
　『ボクが悪い事をしてない』というつもりはないけど、
　『キミたちが裁くやつが全て悪い』訳では無いことは覚えていた方がいい。
　そして知られておくべきだ。
　
　キミたちが叩き殺した子供の事、ボクは忘れていないからね」

「…………もちろん他の事も。ね」

意味有りげにソレは笑った。
見下された者たちは何も答えられない。

「答える気はなさそうだし……じゃあ、ボクは帰る。また。」

子供がする別れの挨拶のような軽い調子で手を振ると、ソレの姿は消えて、
代わりに現れた無数の鳥が方々へと散っていく。

群衆からのどよめきは増し、目の前で繰り広げられていたやり取りがまるで劇のように感じた。
鳥たちの姿はやがて見えなくなり、広場には使われなかった断頭台、言葉を失った役人達、多くの群衆が残された。

これがソレ、あまねく罪を見た最初の出来事。
また、と言った通り、以後何度も処刑されようとしては目の前から脱出してみせる所業を成し遂げる。

ソレに関する最後に聞いた話は、

処刑を諦めた国が滞在していると噂された街と多くの住人ごと、否定の世界に堕とす術を使った。

……という、律法の国にあるまじき大罪を犯した事実だった。

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あまねく罪〈アマネクツミ〉

数多の姿と名を持ち本来の姿を誰も知らない罪人。
物を出す、物の形を変える、己の姿を変える特殊な能力がある。

本来の姿が特◆できず、裁く際に都合が悪かったために
あまねく罪という罪人名をつられた。
主にソレと呼ばれる。

律法の国で多くの罪を犯したが、群衆に■ソレの行いを支持す▓者もおり、
住む国さえ違えば縲√≠繧九＞縺ｯ逾槭→蜻ｼ縺ｰ繧後◆縺ｮ縺ｧ縺ｯ縺ｪ縺�°縺ｨいう
▒もおり蠕区ｳ輔�蝗ｽ縺ｮ滅□の原因と░░た。

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