［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

『一時的に、貴方に俺のボディーガードをお願いしたいんです』



今思えば、我ながら随分と突拍子の無い依頼をしたものだなぁなんて呆れる。
“彼”はよく自分の依頼を受けてくれたものだなぁなんて感心してしまう。


……けれど、

今思えばこれが。
叔父でも楪葉でも、身内でも何でもない。


この街に来て初めて、初めて出会った街の人間に頼った瞬間だったのだ。








それは、叔父が行方不明になり。
気持ちを落ち着けて少し経った頃の事だっただろう。

叔父の帰りを待ちながら己がこの事務所の仕事を引き継ぐ事を心に決め、
営業を再開し事務所の扉を開けて、数日経った頃。

二人の客人が事務所に足を踏み入れた。


……見るからに、堅気ではなさそうな“そちら側の人種”だと見て取れる。

これは面倒事を持ち込まれそうだと予想しながらも、
顔には出さず、席を案内し事情を窺ってみれば案の定。

どうやらヤのつくお仕事をされているお二方の所属している組で、
次期当主を決める諍いが発生しそうだと言う事で。
当主となった証となるご立派な壷を、
それまで預かってもらえる場所を探しているとの事だった。


正直面倒事はごめんではあるけれど、
己の――この事務所での預かった品物の管理は徹底しているつもりだ。
暴力沙汰に巻き込まれる事さえなければ、こちらは断る理由は無い。

無い、が。


「…………」


……先程から気付いている。

こちらを探る様な視線。じっとりとした力量を測る様な眼差し。
あわよくば此処に保管している物を……とでも考えているのだろうか。
というよりも十中八九そうなのだろう。
何の馴染みも無い雑居ビルの片隅を選ぶくらいなら、
もっと信頼のおける預かり先がある筈だろうから。

馬鹿げている。怒る間もなく呆れが勝る。

（……その時になりゃ返り討ちにしてやるけど、）


虚勢などではなく、事実それを行える手段はある。
けれど、それが店主として決して良くない事も知っていた。

取りあえず今回は下見らしいので適当に話をつけて
後日の日程を決めてしまい、彼らにはお帰り頂く事にする。
単純なのかなんなのか二つ返事で了承した男達は、
こちらの望んだままに今回はさっさと引き上げてくれたのだった。


まあ、もし悪い予想が当たったとして、
相手にその気があるのであったとしても。

おそらくだが、彼ら自身の大事な大事な壷を預かっている最中に
手を出してくる事もあるまい。
預ける程の大事な品物。
それに危険が及ぶ様な事をすればまさしく本末転倒だ。


まあ、それはそれとして。

「…………」


予定は三日後、
現組長殿が直々にやって来てくれるとのこと。

それまでに十分な余裕はあるけれど、
さて、どうしたものか。


（叔父さんが居てくれればな）



一人では無いと言う事は、多少の牽制になってくれただろうに。



「…………」


「……ああ、そっか」




叔父さんでなくても良い。

誰か、屈強そうな。傍らに居てくれるだけで牽制になりそうな人を
自分の傍に置いておくだけで良いのだと、気がついた。





――その結果。

便利屋、何でも屋。レンタル関係の営業事務所。
あらゆる職種を探し、実際に見聞きして情報を集め、厳選した末。


白羽の矢を立てる事にしたのが、隣町にある便利屋さんだった訳である。






便利屋『六花』の店主、六花佳仁は、
真面目と言う文字を固めて作った様な、なんとも実直そうな男だった。






***





そんなこんなで。

相談に行けば彼はすんなりと了承をしてくれた何でも屋の六花佳仁さん。

『対談の最中、ただ横に立っていてくれ』という、
傍から聞けばよく意味の分からないであろう依頼を請け負ってくれたのだった。



彼は言われた通り口を開く事も無く、
ただ鋭く真っ直ぐな目つきを連中に向けるだけの仕事をこなしてくれたもので。

これがまた上手い事効いてくれたらしく、

先日やって来た二人組は組長から意味深に向けられる眼差しに萎縮するばかり。
連れ添ってやってきた新顔の複数人は、口を挟む事無くソファの後ろで突っ立つだけ。


狭い室内、十人近くは収まっているこの一室。

この場で口を開き話をするのは店主である自分と
依頼主である組長殿の二人だけと言う、

なんとも異様でなんとも言えない空気の張った空間が出来上がったのだった。






***






「お疲れ様です、六花さん。今日は有難うございました」


下っ端をぞろぞろと引き連れて帰って行ったどこぞの組長殿を見送り、
ふぅと深く吐息を漏らし、ソファに体を沈めながら。

くるりと顔だけそちらを上向き、未だにぴんと立ってくれている彼に礼を述べた。


「いえ、僕は……言われた様に立っていただけですから。
　枢木さんこそ、お疲れ様です」

「その立ってくれていたおかげでスムーズに事が進んだんです。
　俺一人じゃあ今頃銃口でも突付けられてたかも。
　なので、便利屋さんの貴方が居てくれて心強かったですよ」


その頃には既にぴんと張りつめていた空気は無くなっていて、
開け放たれた窓からは外の新鮮な空気を運ぶ風が流れてくる。

少しばかり照れた様子で口元を緩めた姿を見、
ああ、そんな顔もするんだなぁなんてぼんやりと思った。


先程まで、確実に相手を牽制――否、まるで威嚇する様な。
敵意に近い物すら感じられたような気がするけれど。

果たして、この人物。自覚あっての事なのか。何なのか。


（まあでも、初対面で聞くのもな）


出会ったばかりで、互いの素性を知っている訳でもない。

下手に探る必要も無ければ、知る必要もないのだ……けれど。
それはそれとしても、今日ばかりは依頼人と雇われという関係。
彼に対しては恩も、有難いと言う気持ちが純粋にあるのだから、

ただそれだけで突き放すつもりは、毛頭無かった。


だから、



「六花さんは――」


その横顔を目にしながら、口を開く。


「楽しそうにお仕事をされるんですね」


「―――、」


純粋にそう思い、気付けば口から零れ出てしまっていた。
依頼達成後故、もしかしたら気でも抜けていたのかもしれない。

故に、しまったとその後気付く事ができたのは、
少しして、切れ長の金色の瞳がまあるく瞬いたのを認めたからだ。


「ああ、すみません。初対面なのに」

随分と驚かせてしまったらしい、と。
謝罪を口にして頭を下げようとする前に、慌てた様子の彼の姿が映る。


不快だった訳じゃない。

ただ吃驚しただけ。

そんな風に語る彼の様子はどこまでも素直で、
仕事をしていた時には随分と年上の様に感じられていた雰囲気も、
まるで年相応と言わんばかりに和らいでいる事に気がついた。


（……嘘がつけなさそうな人だ）

というより、嘘をついたらすぐ態度でバレてしまいそうな人。

強面な印象を受けてしまいがちだろうが、それでも素直な性格だと伝わってくる。
そうだと分かれば、男も肩の力が若干和らいだ事に気がついた。
裏を探ったり勘繰る必要が無いと無意識下で把握したからだろうか。



彼の話を聞いてみれば、どうやら彼も彼で苦労を重ねてきたらしい。


誤解をされる事が多かったとか、
外見だけで把握される事をよく思わぬところとか。

……正直、今回彼を選んだ理由の内の二、三割程は
“それ”に当て嵌まってしまう為、男の方からは苦笑を滲ませるばかりで
それらに触れてやることは出来なかったのだけれど。


否、もしかしたら。
雰囲気からして、勘の鋭そうな彼の事。

依頼の内容から薄々と把握されてしまっていたのかもしれないけれど。



それは、それとしても。



それでも彼は、快く依頼を承諾してくれた。



そして、“それをそれとした”からこそ。



先程彼に告げた言葉たちは、


『　　　』だなんて感情は、


男にとって珍しく、嘘偽りの無い本心から出てきてくれたのだろう。



彼の仕事熱心な様子を目の当たりにし、或いは感化されたか、
素直になって告げたくなってしまったのかもしれない。







まさかその後に、また話したいと言われるだなんて思っていなかったけれど。





「…………」


「…………」



「六花さんは、物好きですねぇ」


驚きを通り越して、呆れた。
呆れこそしたけれど、それは決して悪い感情ではなかった。

自ずと口端に、笑みが乗る。


向かいの、どこか緊張した面持ちを垣間見せる彼の顔を見つめ、
半ば呆れた様に苦笑を滲ませれば
再び彼の瞳は丸く瞬かれる事となった。


（綺麗だな）


まるで夕日がそこに閉じ込められている様。

先程までは金属の冷たさの様なものすら感じられたそれは、
嘘みたいに温かみを宿していて。



久しぶりに、人の体温に触れた様な錯覚を覚えた。



「いいですよ」



そう、だからきっと。

また会って話をしてみるのもいいかもしれないと、
気まぐれにも思う事になったのかもしれない。



「見たところ俺と同じで二十代……でしょうか？
　歳も近いので、まずはオトモダチという事で」



そう言う事ならば、自分だけ座ったままというのも申し訳がないだろう。

彼に向かいの席を示すという手もあったが、
それよりも自分が立った方が手っ取り早いからと、ソファから腰を浮かし。




自分よりも体格も背も大きい、彼と、正面から向き合って。



二つの深い浅葱色に、金色を映しこんだ。










「よろしくお願いします、六花さん。

　次回は依頼関係無しに、友人として会いましょう」

---

「……なんて事もあったなぁ」


「うん？」




瓦礫の山。赤と闇に染まった世界。

ハザマという時間と空間の中、
一つの山場を越えて休息を取る中で、昔の事を思い返していた。




もうすぐ、決着がつく。


長い様で短かった、侵略戦争の結末。

大事な世界、護りたかった居場所。


だから、そんな風にらしくない事をしてしまったのかもしれない。



「ううん、ちょっとね。昔の事を思い返してただけ」




流石に、“貴方と友人になった日の事だ”と口にするのはこそばゆかった為に
曖昧に応えてやれば、彼は「そうか？」なんて首を傾げてみせる。


あの頃と比べたら、彼との関係性は大きく変わった。

あの頃には、こんな深く大切な間柄になるだなんて想像もしていなかった。

でもこの事に、悔いも迷いも一切無い。




そう、未来がどうなるかだなんて分からない。



どんなに絶望的な状況でも、そうなると決まっていないだけ先がある。

もしかしたら、まだあの街を取り戻す手が残されているかもしれない。
ワールドスワップが発生してしまっても、なんとかなるかもしれない。


……そう思える様になったきっかけの一つは、

今思えば、あの時彼に依頼をした事も含まれている様にすら感じられる。







だってあの時、

彼が自分の仕事に真摯に向き合って、
己の職務を楽しそうに行う姿を見て。


その姿は何処か、
預かり屋を営む叔父のそれにも似ている気がして。



いいな、と。思ったのだ。



嗚呼、自分も。


叔父の代わり、だけではなく。

ただ、待つばかりでもなく。



この場所に胸を張って居られるように。


この仕事に自信を持って、向き合う様になれたら。



自分も、ここに居る事を、

今までは道具でしかなかった“預かる”という事を。



“楽しい”と、思える様になるのかと――










「枢木」


「うん？」


ふと名前を呼ばれて顔を上げれば、もふり。
彼の体がこちらに傾き、体重を預けてきた。

預けてきた、といっても。こちらが倒れてしまわない程度の戯れ。

戯れ、というよりも。甘えている様な拗ねている様なもののようだった。



「……その昔の事は、僕の知っている事？」




彼の言わんとしている事を理解する。




彼は、彼自身の過去の事を自分に打ち明けてくれていた。


だからつい先程まで、彼と協力して戦い抜けたと言っても良い。

既に弱みをみせてくれていた。
辛い事も悲しい事も全部、ありのまま、曝け出してくれた。



けれど、

自分はまだ、それが出来ていない。




彼を信頼出来ない訳ではない。話す事が辛い訳でもない。


何といえばいいのだろうか。



自分にとって、まだ終わっていないことだから。

自分にとって、まだ過去の話ではないから。



そういう感覚を、どう伝えればいいのだろうか。





……でも。



先日、現実世界の方で久方振りに楪葉から連絡があった。


話がある。会いたいと言われた。




彼女と会うのは、叔父が行方不明になって以来。

彼女と連絡を取るのは、叔父の事で何か発見があればと決めていた。




「…………」



連絡が来たという事は。

つまりは、そう言う事。




ずっと、自分一人で抱えて。閉じ込めてきたこと。


その封印を解く時が、近づいてきているのだと悟る。




そして、





「……佳仁さん」




彼の名を呼んで、手を握る。


見下ろす顔には、柔らかな金色。



ああ、そうだ。

自分はずっと前から、この輝きが大好きだった。





「……俺、話すよ」





「帰ったら、佳仁さんに話す。

　……この決意をあっちで覚えていられるか分からないけど、
　遅かれ早かれ、話すから。佳仁さんには知ってほしいから」






知ってほしい。


ダメになりそうだったら、隣で支えてほしい。

ありのままの自分も全部、受け止めてほしい。





そう、今となっては彼の事が本当に、本当に大切で。


そしてそれと同じだけ彼も、想ってくれている事を知っているから。










「だから――

　俺が前に進もうとするところを、すぐ傍で見守っててね」











貴方にだけは、知ってほしい。

















きっと、その約束の地は。

来るべき時が来たら、開かれる事だろう――。


【http://lisge.com/ib/talk.php?p=6347】

ENo.947 もも とのやりとり

ItemNo.40 白檀の塗香 を使用しました！
　魔香のため、体調は回復しなかった。
　今回の全戦闘において 回復40 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

守護者の姿が消え去った――

　

　

六角形の柱から天に向け、赤色の光柱が立つ。

どうやら次元タクシーで行けるようになったようだ。

命術LV を 4 UP！（LV56⇒60、-4CP）
幻術LV を 1 UP！（LV60⇒61、-1CP）
装飾LV を 2 UP！（LV97⇒99、-2CP）
料理LV を 3 UP！（LV0⇒3、-3CP）

鈴(1154) とカードを交換しました！

剣魔の助太刀 （スペシャルタイム）


ユグドラシル を研究しました！（深度2⇒3）
レスレクシオン を研究しました！（深度1⇒2）
レスレクシオン を研究しました！（深度2⇒3）

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

六花(153) は 四葉 を入手！
枢木(296) は 狗尾草 を入手！
六花(153) は 救急バッグ を入手！
六花(153) は クレマチス を入手！
枢木(296) は 雪兎 を入手！
六花(153) は 雪兎 を入手！

六花(153) に移動を委ねました。

チナミ区 D-2（ベースキャンプ）に戻りました！
体調が全回復しました！

声が響く。