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水のにおいがする。
咽返るような濃密な、淀んだ水のにおいだ。

妖怪を見つけることは難しくない。
昔から、深谷には妖怪の存在を感知することができた。
大半の人間にそれはできないのだと言われて、随分と驚いたものだ。
神社が好きだったが、その最初の理由は、妙なモノがいなかったからかもしれない。

見えれば寄ってきて嫌がらせをするし、
見えない相手には、やはり寄って行って取り憑く。
取り憑かれたものは、目に見えて調子を崩し、豹変することもあったから、
やはり深谷は──三劔司と呼ばれていた頃から──妖怪が嫌いだった。
人間や動物に対し悪事ばかりを働く、不気味なそれら。
しかし、避けて距離を取りはしても、恨み憎んではいけないと教えられてきた。
負の感情は新たな怨恨を生む。魂を汚し、神の道から遠ざける。

妖怪は最初から、好んで人を襲うものではない。
苦しみ抜いた生命が、それらに影響された無辜の魂が、放置された結果だと。
だから赦し、救ってやる者が必要なのだと、

──だから鵠様は、全ての生命を慈しむのだと。

師匠の教えが、今更に脳裏を過ぎる。
妖怪は神と人の敵だ。だが、悪ではない。


清も、悪ではなかった。
運命は平等ではない。得をするものがいる一方で、損ばかりを押し付けられる者もいる。
その上で全てを憎んだ清を、深谷だけは、庇ってやらねばならない。
自分が悪を引き受けても、それはそれで構わなかった。
形振り構っていられなかったから、清を追い詰め続けたけれど、
その罪は、深谷が背負えば良いものだ。

三劔司としての人生。社で共同生活を送りながら、神の事を学んだ。
師匠について退魔の術を学び、退魔師として生きて、妻を失って、弟子を得て。
その、あまりにも長い一睡の夢を思う。

その最後に広がっていたのは、水溜まりだった。
広く平たく、弟子だったものが、ハザマの光景を映して、黒々と広がっている。


死後、人は川を渡るというが、それにしてはあまりに小さい。
渡る必要もないそれを──清だった水溜まりを──見下ろして、
次いで、その傍に膝をついた人影を見る。

何かがいるのは予想していた。
移動を繰り返していた妖怪の気配、それが一つところに留まったまま大きく乱れ、
そして、不意に弱まった。
何かと戦っているのだろうと思っていた。
だが、その相手に関しては予想外だったのだ。

彼はここに、いないはずの人間だ。
イバラシティにいるそれも、仮初の存在だったはずだ。


深谷よりも高い長身。細く見えないのは、ダウンジャケットで着膨れしているからだ。
向こうは夏の筈だが、着慣れた服で居るということだろうか。今の深谷のように。

ああ、全く。
人生には、予想もつかない事がいくつも起こる。
妻の死。己の死。弟子の裏切り。
だが、こういう奇跡もあるのだ。

---

凡百の学生。

雲谷煙次について、深谷が最初に持った印象はそれだった。
騙されやすく、調子の良い若い男。
深谷の撒いたビラを信じたのはともかく、その後も渋ることなく事情を話し
相談料まで言い値で置いていくあたり、将来が心配になったものだ。
その一方で、この手の男は、結局どうなっても要領良く暮らしていくものだとも思っていた。
明るい人間を深谷は好いていたし、それが自分を慕う若い人間なら、尚の事気に入っていた。

清がそこに想いを寄せていると知って、驚きはしたが納得した。
自分を痛めつけるようなことをやめ、
好いた人間と共にいようとし始めた事は、純粋に喜ばしかったし、
それが彼のような善人であることに安心もした。
もっと早く、自分が生きているうちに、清が彼のような人間に出会えていればと、
詮無い事も考えてしまう。

彼への恋慕を口にする清は、痛々しかった。
煙次はどこまで行ってもワールドスワップの生んだ幻で、
その事実も、清をずっと苦しめていたはずなのに。



こうして、死人が体を得て歩いているくらいだ。
どうしようもない落とし穴や罠があるのなら、それと同じくらい、奇跡も存在しているのだろう。


妖怪が浄いものを襲うのは、自らの穢れを落とし、元の姿に戻るためだ。
その穢れが深ければ深いほどに、力ある妖怪に成り果て、積極的に人間や、弱い妖怪を襲う。
しかしその試みが上手くいくことは、非常に少ない。

生き物から生気を吸い取れば、穢れ自体は弱まるが、
行きすぎて相手を殺してしまえば逆効果となる。
殺生は穢れを深め、残された者の恨みもまた、妖怪を神の道から遠ざける。
また、穢れが弱まることは、力の源泉を失うことも意味する。
首尾よく穢れを落としても、弱体化によってそれ以上の浄化が自力でできず、
より強い妖怪に食われることさえあった。

清は生まれ持っての才と、深い悲嘆と恨み、そして神力の乱用によって、大妖となっていた。
とはいえハザマで30時間以上を戦い抜いた者達が、簡単に殺せるとも思えない。
だから、深谷が追いつくまでに、死なない程度に何かを襲っているくらいは、期待していた。
他者にぶつけた穢れの分、取り込んだ生気の分だけ、弱まっていればと。
深谷が名付けた名でもって調伏できればと、そう思っていた。

だが、ここまで大人しくなっていようとは。


今の清は、力のほとんどを失っていた。
微かに波打ち、小魚が上げるような小さなしぶきとなって、大学生の方へ向かおうとしているのみだ。
ただ、向かったところで、人の言葉も忘れた今では何もできないだろう。
何かできるとすれば、休んで力を取り戻した時だ。


そうなれば今度こそ、目の前のものを飲み込もうとするに違いない。
明確な望みを持っていて、求めるものが存在する癖に、
その確かな形も、そこへの道も忘れている。
だから人を襲うし、間違ったやり方で求めてしまう。
それが妖怪というものだ。

人生を退魔に捧げながらも、それを忘れていた。
弟子だから、身内だからと、目が曇っていたのだろう。


後悔は尽きず、それを誤魔化すべく軽口を叩いていると、全てが夢であるようにも思える。
ここがハザマであることも、自身が死んでいる事も間違いなく、
指先の感覚が失せている事、口を利こうとすれば舌がもつれそうになる事、
ひとつひとつが現実を伝えてくる今でさえ。

吐息が漏れた。
アンジニティは、元居た世界から否定され、追放された者が辿り着く世界だったか。
だとすれば、清は戻ってはいけないし、
この"人間"も、そこに返すべきではないだろう。

全てが一睡の夢なら、せめて寝覚めの良い夢であるべきだ。




彼が大八洲にいればと、考えてはいたことだ。
そして今、煙次がここにいる。
いかなる奇跡か知る術は深谷には無かったが、あたりに漂う黒煙は彼のものに間違いなかったし
以前のように、清を陥れる為だとも思えない。

それならば、ケムルス公──マモノであっても、この際、妖怪であっても構わない。
弟子は可愛い。清は大切だ。
あの死人に言われた事は間違っておらず、だから、一人にしたくもなかった。
自分はもう傍にはいられないが、

──清は、一人では生きていけない人間だ。

誰かが見ていてくれるなら安心していられるし、
それが、清自身が選んだ人間なら尚更だ。


だが、生命であるには変わりない。
深谷の神、鵠の恵みは全ての生命に齎される。
それが、このマモノにも──マモノが変じた人間もどきにも降り注ぐと、願う他ない。
大八洲にケムルス公のようなマモノはいなかったし、
どのような形で移動するかもわからない。
触によって今まで存在しなかったものが落ちてきた事例は殆ど無いから、
深谷や清の神力が異能として処理されたように、何らかの『修正』を受けているのかもしれない。


清を──水妖、不浄の滝を、名前によって調伏し、弱らせた所で祓う。
そのつもりでいたし、この上で使い残しても仕方ない。
強いて言うのなら、使い道はもう一つ残っていたが、
掃き溜めの世界にいるべき者が、異界に渡る覚悟があるのなら、そちらに賭けたって良かった。


深谷は、視線を清に戻した。
もう後ろは振り返らなかった。
視界に黒い粒がいっぱいに浮かんでいる。
振り返ったところで碌に見えないから、清の方に集中することにした。

下ろした手の先、浸した水を通じて、流れてくるものを探る。
ほんの僅かでも繋がってさえいれば、妖怪の思念は流れてくるものだ。
ばらばらのそれをどうにか読み取り、楽器の調子を合わせるようにして、自分の意識をそれに沿わせていく。
沿わせた分だけ、温存した力が削られていくが、そもそも、この為に残しておいた力だ。

ENo.631 クロウ とのやりとり

ItemNo.2 いとしきまぼろし を使用しました！
　魔香のため、体調は回復しなかった。
　今回の全戦闘において 耐疫10 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

ラヴィアルテ(435) とカードを交換しました！

膨れ上がる衝動 （フォレストオファリング）


◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

次元タクシーで ツクナミ区 K-2：チェックポイント《小集落》 に行こうとしましたが、チェックポイントが開放されていません。

チナミ区 B-5（水地）には移動できません。
チナミ区 B-5（水地）には移動できません。
チナミ区 B-5（水地）には移動できません。
チナミ区 B-5（水地）には移動できません。
チナミ区 B-5（水地）には移動できません。
体調が全回復しました！

『アライ区 F-12：チェックポイント《赤い灯火》』へ採集に向かうことにしました！
　　 - 不浄の滝(158) の選択は アライ区 F-12：チェックポイント《赤い灯火》

MISSION!!
ツクナミ区 E-16：チェックポイント《落書き壁》 を選択！
　　 - 不浄の滝(158) の選択は ツクナミ区 E-16：チェックポイント《落書き壁》

［792 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［433 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［464 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［201 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［399 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［326 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［267 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［197 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［117 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［147 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［152 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［310 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［49 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［225 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［106 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［110 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［112 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［56 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［88 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［81 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［16 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［100 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［45 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト
［92 / 100］ ―― 《変な像》揺らぎ
［100 / 100］ ―― 《白い渦》不幸
［100 / 100］ ―― 《黒い渦》不運
［21 / 100］ ―― 《線路》駆逐



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

星空が映る。

　

微かな波音と共に、弦楽器の優しい音色。

　

　

　

星空のなかに、黒い裂け目。

　

その裂け目にいくつもの小さな光の玉が吸い込まれてゆく。

　

　

　




　




　

　

　

チャットが閉じられる――

チェックポイント。



再び現れる守護者。

　　




それは言葉を発すると共に襲いかかる！