この日記は前回からの続きになるよ！




落ち合った世界の果て。
突き立った崖の傍。

磯の風が、肌を撫でる中、海の香よりも濃い血の匂に包まれて。
肉に牙を突き立てて、引き千切る。
溢れ出る血を飲み干す。

一条瀬織が何より求め、そして儂に流し込んで歪んだ愛情という名の飢え。
儂ただ一人にとっての極上の素材…………で、あった筈なのに。

欠片も美味には感じない。

極上などには程遠く、ただの肉だ。ただの人間の肉。
白波白楽にも、
ルーシー・チャールトンにも、
山本悠吏にも、遠く及ばない。

そもそも、あれだけ近づきながら、鳳念ほど焦がれる事すらない。

推測は間違っていた？
ならば正解は？この不可解な現象は？

――その答えを、得る前に。
強い衝撃が頭部を襲い、この身は、地へと、伏せた。


不意を突く強襲。

一時間前に受けた傷は、まだ完全に癒えてはおらず。
そこに追い打ちをかける形での殴打は、暫しの間、自由に振る舞うだけの体の自由を奪い。

それでも、無理に身を捩り、強襲の主犯を視界に入れようとすれば。









血のついた岩を手に持つ、先ほど肉塊となった筈の男が、そこにはあった。




そこからの男の動きに迷いなどなく、実にスムーズに、憎らしいほどに動きは軽やかに。
儂を殴りつけたその岩を捨てれば、そのまま血塗れた手で、武器を手に取る。
よくよく見れば、奴の傍には幾つもの武器があり。
それを――儂に向かって、振り下ろしてくる。

次々に手足を貫き、深く地に突き刺さる刃。
右と、左の、手と、足と。

順に四肢に突き刺す刃は、枷の代わりとなり、
頭部へ受けたダメージによる視界のブレが戻った後とて、動きは取れず。
鬼とて、苦痛を感じる身体のはずもなく、さりとて苦痛に気をやるほど脆くもない。
紅く塗りたくった唇から漏れる苦しみもがく声を聞いたとて、
男は耳障りな鼻歌を途切れさせる事もない。四肢を貫く刃を抜く気もない。

よくもまあ、これで儂に愛だの何だのと、ある種の感心は覚え。




いくらでも腰掛け代わりになる岩など転がっておろうに、
休憩場所として選んだのは、儂の腹の上に、あまりにも堂々と腰掛けてくる。
普段ならば成人の男の体重とて、何ら枷にはならぬが、四肢すら動かぬ中となれば、
これすら、自由を奪う為のものなのであろうという印象を覚え、憎しみが増していく。




たしかに儂は、こやつを喰らった。
肉塊となったこやつの骸は、確かにまだ儂らの近くに転がっており。
その死体とは別に、儂の上で薄ら笑いを浮かべる奴も、たしかにいる。

幻術にしては、口の中にまだ残る鉄の香が矛盾し――……

不意に。上に乗る奴の指が、鳴る。




何かしらの術のトリガーであったのだろう仕草の後。
事切れていた男の死体は、醜く火傷の残る男の顔から、ただの無個性そのものへと。
次郎垣内次郎を模したつもりなのか、相良伊橋高校の制服ではなく、くたびれたスーツへと。

背丈も、体つきも、すべてが何もかも異なる見知らぬ男へと変化を遂げた骸。
力ずくの下策が得意な駄目貴族とは、よくのたまったものだ。
この儂をたばかりおって。




怒りに、苛立ちに、喚いて、起き上がろうと動く。
手足に受ける傷口が当然開く、ドロリとした紅く濁った体液が溢れる。
そんな痛み程度で、儂を止められると思っているのならば、その認識の誤りを正してくれる。




おもむろに取り出される短刀が、鞘から抜かれ。
迷いもなく振り下ろされて、胸部へと突き刺さる。
言動がまるで噛み合わぬそれを見るに、こやつはもう、とうに狂っているのかとすら。






込み上げる悲鳴を噛み殺しながら、それでも此方を見下ろす男の面に向かい、嘲りの笑みを向け。






と。告げながら伸びる手の先は、下腹部であり。

このハザマで闘争が始まってかなり初期の頃より。
こやつは確かにずっと、優秀な世継ぎを求めては、いた。
愛だの、何だのと、舌先三寸ばかりではあるが、
胎を求めるというついては偽りは……きっと、無い。

けれど、座椅子代わりとしながらよくもまあ、という主張以上に、
生理的嫌悪が全身を駆け抜け。
ぞわりと粟立つ感覚を受けて、拒絶するよう睨みつけるが、
……そんなもので怯む輩では、ないのだろう。




その事実。
これだけ拒絶した言葉を向けようとも、
平然とこちらを見下ろしてくるその目線に、揺らぎなどない。




食事風景を何処かで眺めていたのだろう。
儂が、あの無個性のスーツ男を食った時に抱いた感想は、そのまま表に出ていたのか、
触れられたくない話題に突然切り込んでくるのは確信犯ではないか。
憎らしさを溜めこむばかりの状態も気に留めず、言の葉は続いていく。




ぺらぺらと並べ立てていく。
煙に巻いて、屁理屈をこねて、言いくるめようとする、いつものさま。




それでも。最後の一言で、一気に感情が荒れ狂う。




こやつの中にある、次郎垣内次郎という存在を、
儂の中に落としてしまった一条瀬織の持つ感情の所為で、求めて止まぬ事は認めよう。
決して口に出したりなどはせぬが。

抑え込もうとしていた訳ではないが、それでも感情を乱されていると思われる事自体が癪で、
相手の調子に乗ってやるものかとしてはいたものが、滲み出ていく。

求める理由が愛であるなどと、この儂の中に、そんなおぞましいものがまだ残っているなどと、
対峙しても尚、思われている事に、我慢がならない。
流れる血の量が増そうとも、四肢の束縛に抗うように身を捩る。
傷口が広がる。肉を裂く感覚に、顔を歪めようとも、衝動を抑えることは出来ず。






淡々とした、けれど被せるような、相手の声に言葉が、詰まる。
言えない。こやつに知らせたならば、その後に続く浮つくさまが目に浮かぶようで。






相槌と共に、胸に刺さったままの短刀を持つ手を動かし、ぐりぐりと弄り回す。
刺すだけでなく、肉をかき回されるように傷口を広げられるが。




対話の間に、十分に身体の自由は戻った。
暴れ、叫ぶことが出来るぐらいには。

苦痛を味わい、血を多量に流そうとも、その程度で、鬼は沈みはしない。
四肢を刺す刃に、自ら肉を押し付けて裂いていく。
激痛に耐える中、絞り出すような声、痛みの怒りは全て相手へと注ぎ。

中心より裂けたその手で、胸元にある手を掴み、男が逃れるのを防ぎ、引き寄せ。











もう片側の手で、引き寄せた男の胴を、貫いて、見せた。




今度こそ、偽者ではないことを、知る。
溢れ出る血の香は、痛みを忘れる程の食慾を沸き立たせる。
傷口より流れ出て、地面に落ちる血すら惜しい。
すべて、儂のモノにしたい。
これだけ欲しいと願うのは、きっと、初めて人喰い鬼として目覚めたあのときと、同じ。




先に肉を削いで自由を得た手に遅れ、両足も自由を勝ち取り、
獲物を刺したままに立ち上がる儂に対し。
追い詰められた状態であろうに、それでも相手の声には余裕が残る。

残る余裕は、声だけに留まらず。
腰に手を回し、両腕がしっかりと儂の胴を抱く。

刺したままの腕はより深く相手の腹を抉り、此方から振り払うことも出来ぬほどに、近く。




ただの人である男が、立っているだけでも驚きであるのに。
儂を抱いたまま、地を、駆けて。









そして、共に。

赤い空と海へと向けて、大きく、跳んだ。













長いようで短い、落下の間。
逃れぬことのできぬ抱擁の中。

言葉を互いに発する事はなく。

視界を塞ぐよう、押し付けられる肘。
そして、その直後に、堕ち切って、辿りついた地には突き立った岩が、儂を――…………

















こうして。

かつて人間であった、一人の鬼の命は。
この世界で、終わりを、迎えた。

▲	晴 「お前のこと信じてたのに裏切られたよ。 俺の肉は美味しかったか？いや、美味しくないだろうな。脂肪しかないだろうからさ」

	晴 「けどお前のおかげで学ぶこともできた。 お前たちアンジニティってのはそうなんだな。そうやって、平然と俺たちを騙す。 善良な一般人だろうとなんだろうと」

	晴 「友達だと思ってたよ。 イバラシティで悠吏と仲良くして、冗談きついことも言われるけど仲良くできるやつだと。 でも」

	晴 「お前のおかげで学ばせてもらったよ。 お前たちアンジニティはもう信じないし、騙されない」

	晴 「絶対に・・・絶対に許さないからなアンジニティ 俺を苦しめて、こんなことにしたお前たちは 絶対に許さない」

鬼彩天外 ENo.105 アマネ ENo.777 ルナリウム ENo.801 （排除済） ENo.821 ハニィ

ハザマに生きるもの レイス 大蟷螂 ロックドラゴン ケツァルコアトル

トレイターズ ENo.226 スシキ ENo.613 シスター･ヴィー ENo.942 風花 ENo.1541 メイコ

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2人の声が響いています。

鬼彩天外 ENo.105 アマネ ENo.777 ルナリウム ENo.801 （排除済） ENo.821 ハニィ

ハザマに生きるもの リンゴさん 花嵐 レイス レイス

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巻き込まれ型冒険組 ENo.141 れーこ ENo.603 ハティ ENo.639 ソラ ENo.967 エリ

鬼彩天外 ENo.105 アマネ ENo.777 ルナリウム ENo.801 （排除済） ENo.821 ハニィ

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