
ポールモール邸での事件はチャコールによって解決され、メイドのリトゥラが逮捕されたことで幕引きを迎えた。
ニコレットは一旦、チャコールと共に、彼の事務所に戻ってきた。
探偵が事務所のドアを開けると、部屋に染み付いたタバコの匂いが鼻をついた。
「さあどうぞ、座って。」
探偵に促され、ニコレットは応接セットのソファに腰掛けた。
探偵も向かい側の椅子に無造作に腰を下ろす。
そして流れるようにタバコを咥え、ブックマッチで火をつけると、もくもくと煙を吐き出した。
しばし無言でタバコを吸い続ける探偵に、言い知れぬ不気味さを感じ、ニコレットは堪らずに口を開いた。
「あ、あの…」
火の色をした探偵の目が、じろりとニコレットに向けられる。
ニコレットは息を呑むが、なんとか言葉を絞り出した。
「さ…先ほどは本当にありがとうございましたッス。おかげさまで旦那様とキャスターさんも少しは浮かばれるッス…それに、アッシのことも助けて頂いて…ありがとうございましたっス」
探偵は煙混じりに言葉を返す。
「どういたしまして。仕事だからね…それに、タダじゃないからな。」
タダじゃない。その言葉に、ニコレットはどきりと体を強張らせた。
「報酬だよ。最初にも確認したけど、俺の報酬は覚えてるよな。」
この探偵に見据えられると、喉がかさつく。ニコレットは唾を飲み込むと、震える声で答えた。
「もちろん覚えてるっス…あなたの報酬は、依頼人の秘密…」
探偵は頷くと、ポケットから黒い手帳を取り出して開く。
「そうだ。本来ならば前払いなんだけどな、君は後払いにさせてもらったよ。すっかりお待ちかねだよ。さあ教えてくれ、君の秘密を、な。」
「アッシの、秘密…」
ニコレットは、ぎゅっと手を握り締める。
その様子を見て、探偵は薄く笑った。
「その前に。君の名前を教えてくれよ」
ニコレットの背筋を冷たい汗が伝う。思わず、ぎこちない笑みを作る。
「な…名前?ご存知でしょう、アッシの名前は…ニコレット・タバカム…」
「ニコレット?そんなわけないさ。嘘はよくない。」
ニコレットの作り笑いが凍りつくが、そんなことはお構いなしに探偵は続ける。
「最初は面倒だから黙っていたがね、ニコレット、それは女性の名前だろう?だが君は…」
ニコレットの息が荒くなる。
背筋が痛いほどに強張っている。
今まで周りに嘘をついてきた。周りを騙してやり過ごしてきた。でも、もうだめだ。もう、隠し通せない。
全身から血の気が引く。
探偵は、ニコレットを見つめる赫灼たる瞳を眇めた。
「メイド服を着ているがーーーーーー男だろ?」
その口元は、抑え切れない好奇心で、にやにやと歪んでいた。

[817 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[442 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[479 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[200 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[408 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[327 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[265 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[192 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[111 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[145 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[145 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[304 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[41 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[208 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
[92 / 300] ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
[104 / 200] ―― 《図書館》蜂のように刺し
[96 / 200] ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
[46 / 200] ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
[80 / 100] ―― 《珈琲店》反転攻勢
[100 / 100] ―― 《屋台》更なる加護
[62 / 100] ―― 《苺畑》不安定性
[9 / 100] ―― 《荒波》強き壁
[100 / 100] ―― 《小集落》猛襲
[24 / 100] ―― 《落書き壁》リアクト
[45 / 100] ―― 《変な像》揺らぎ
[2 / 100] ―― 《白い渦》不幸
[88 / 100] ―― 《黒い渦》不運
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
少女
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少女 「・・・・・・・・・」 |
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少女 「まだこうして発信できるだけ、この呪いにも温情があると信じたいわね。」 |
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少女 「・・・長くは分身が許さないかしら。私の力なのに、本当にひどい話だわ。」 |
少女がつぶやく。
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少女 「・・・・・・・・・」 |
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少女 「私はこの呪いを終わらせたいのです。そのためには―― ザザッ・・・」 |
雑音で声がかき消える。
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少女 「――やっぱり温情なんて無いわね。 私の意思なんて呪いの監視の外側から、少しだけしか。」 |
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少女 「・・・これが最後の問い、最後の足掻きです。」 |
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少女 「貴方は、何処に居たいですか?」 |
チャットが閉じられる――