［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

　四月が終わると五月が来る。一般に、五月とは五月病の語源として広く知られている。理想と現実、新生活と環境の変化、疲れ、未来への失望、恐れ、諸々……今の職場と人間関係に満足している彼にとってみれば、全く関わりのない言葉だ。働くことは好きではないが、職場に通うことは嫌いではない。
　そんな彼でも、休日とあらば大抵は昼までベッドに入っている。職場に行かない日に早起きする理由がない。起きる意味もなければ、起きない理由もないのだが、どちらかといえば眠っていたほうがマシだった。

「九時……か……」

　そんな彼でも、たまには早起きすることもあった。午前の時間を逃してはならない用事がある時、彼は頑張って早く起きる。適当に朝食を流し込み、身支度を整えた。誰と会うわけでもないので、髭は剃らないが。
　目指す時間は決まっている。彼は車に乗り込むと、キィをひねってギアを入れた。




「実は先日、見てきたんですよ」

　この頃は慣れたもので、上司たる茅芽笹子は特に表情を変えなかった。いつもの通り、怪訝そうな声色だけで答えてくる。書類に目を落としたまま、こちらに目線すらよこさぬまま。

「花見……にはちょっと遅いわね。絵画鑑賞って趣味は聞いたことが無いし。何らかのライブという可能性も捨てきれないけれど、その場合は行って来たと言いそうなもの。見た……つまり、映画の話かしら？」
「おお……良く分かりましたね。僕のことを知り尽くしているということですか」
「最近ずっと言ってたじゃない。新作が楽しみって話」
「なるほど。答えはすぐそばにあるという大事な教えですな」
「そういう寓話性は求めてないのよ」

　ノーヒント問答も慣れたもので、上司の正答率は三度やれば二度は当ててくるほどになっていた。見てきた──上司が推理した通り、先の休みは映画館に足を運んでいだ。新作映画の上映日、可能なら無理のない範囲で一番速い時間帯に見たいという欲求が、彼に早起きを促したのである。

「と言いますのも、そろそろこういった話題の段階へと進んでも良いものかと思いまして」
「こういった段階、というと？」
「それはもう、次の段階です。我々も長い付き合いですし、より胸襟を開いていくべきかと」
「言ってることは分かったけど、まずその口調やめて貰えないかしら。そういう役が居たの？」
「はは、流石は笹子さんだ。その鋭い慧眼、まさに──」
「やめて貰えないかしら」
「はい。やめます。すみませんでした。話を続けてもよろしいでしょうか？」
「許可します」
「ええと、どこまで話したっけな……ああ、好みの話です。広く言えば……好みが合うのは大事ですからね。無論、今この場において、好みとはズバリ映画の好みの話となるわけですが」
「そんなに前置きする話でもないんじゃないの？　話くらいするでしょう。映画の……好みとか」

　言っているうちに、思い当たる何かがあったのだろう。徐々に歯切れが悪くなる彼女に対し、補足する形で言葉を続ける。

「そう。するか？　ということなんです。好きな映画の話とか、見た映画の感想とかはするじゃないですか。実際笹子さんともしたことありますし。それって好みの話ではないんですよ」
「そうね……私見になってしまうけど、映画って他の娯楽に比べて結構好き嫌いとか、好みが激しいイメージがあるものね」
「本とか漫画とか、あるいはドラマともちょっと違うんですよ。映画って、なんというか、深いところに何かがあるというか……」
「映画って結構な額を払って見るわけじゃない。その辺もなんか関係してるのかしらね」

　書類を確認していた彼女の手は止まっていた。先ほどまではモニタの奥に隠れていた姿も、途中から明確にこちらに向いている。彼女の興味を引く話題だった──もとい、彼女の興味を引くことに成功した。互いに故郷から離れて一人で暮らす者同士、映画について語るような友人も多くはない。要求を掘り起こしたことは、ビジネスで言えば新規市場開拓も同然である。

「例えばですよ。好みの話を振って、古いけど名作、でも古いから見たことがない……そういうのを出されて、話が続かなくなることってあるじゃないですか。何とは言いませんが」
「あー。あるわね。その気まずさったらないのよね、本当に。相手も悪気があるわけじゃないし、こっちも話題に乗れなくて気まずいしで……」
「だからこそ、映画の話はある程度の信頼関係の上で行うべきだというのが持論なんです。で、ある程度の信頼関係があるので、映画の話しましょう。僕は小難しくない奴とか、派手で伏線回収が上手いやつが好きですね。駄目なのは恋愛系」
「結構なカードを切ってきたわね……好み、好みねえ。私は結構保守的というか、見て駄目だった時の悔しさが許せなくて……どちらかと言えば名作とか、世間の評価が定まった作品の方が好みかしら。あと、ホラーは駄目」
「なるほど……となるとアレですか。白黒の、サイレントとか」
「古いけど見たことない名作の話に私が同調したって記憶、もう消え去ってるの？」
「最近はリバイバル上映なんかもありますしね……と、ここまでが胸襟を開かないトークです」
「え？」

　ぽかんとあっけにとられた表情の上司を見るのは、彼にとって無上の喜びの一つだった。常日頃から隙を見せない、あるいは見せないように努力している、そんな彼女の素の表情を拝めるならば、突拍子など必要ない。

「実は僕、その、脚本があんまり駄目な奴とかも好きなんですよ。突っ込みどころが多いと言いますか」
「……ちょっと理解が難しい概念なのだけれど、出来れば出来るだけ詳しく聞かせて貰えるかしら？　今後の部下との円滑なコミュニケーションにも関わりそう」
「表現として適切かどうかはアレなんですが、明らかに体に悪いのは分かってるけどコーラが飲みたい瞬間ってあるじゃないですか。そういったちょっと駄目な作品の方が……後で誰かと話す時、盛り上がれるんですよ」
「う……いや、落ち着いて茅芽笹子。お得意の詭弁、いつもの詭弁……私は騙されない……」
「あんまりにも完璧な作品って、『良かった』『素晴らしい』に尽きちゃうんですよ。人間と同じです。ちょっと隙があったほうがチャーミングってなもんで」
「そう、ね……どんなにダメだと分かっていても、夜中にケーキが食べたくなるのだって人間よね……」
「いや、別に笹子さんが夜中ケーキ食べてるところがチャーミングって話ではなくてですよ」
「知ってるわよ！　比喩でしょう！？　でも……言われてみればそう、って思いあたる節もないわけではないのよ。人と感想を言い合いたくなるものって、どちらかと言えば悪口寄りの感想なのよね……」
「人と悪口を言い合う。それはつまり、信頼関係の究極系……秘密の共有なんですよ」
「こんな歪んだ映画論に、ちょっとでも共感してしまうなんて……」

　勝った。
　彼は勝利を確信した。適当な詭弁とそれっぽい理屈で畳みかけ、正常な判断能力を濁したまま本題に持っていく。
　回りくどさは彼なりの照れ隠しである。最近の上司の鋭い直感を見るに、今となっては隠せているのか微妙なところではあるが。
　フィニッシュブローとして取り出したのは、映画館の上映スケジュール表だった。芝居交じりに懐から取り出し、上司のデスクに滑らせる。

「ところで、近所の映画館でリバイバルやってますよ。今週は一昔前の超大作サイバーパンクの……二作目です」
「うー……いいところ突いてくるわね。一作目は問答無用の名作だったのは覚えているけれど」
「そう。二作目は……どうだっけな？　世界、広げすぎ？　話、畳めるの？　そういった危険な雰囲気を纏った作品です。どうですか？　僕と……映画バトルだ！」
「どこが一番悔しいかって、生憎と土曜日は予定がないのよね……」

　どこか観念したような表情の上司を前に、胸中で快哉を叫ぶ。どんな理由であれ、上司と映画を見に行くのが重要なのだ。
　映画館への約束を取り付けるための戦いは終わった。次の土曜が楽しみであれば、週明けの月曜も苦ではない。イバラシティライフを満喫する彼にとって、五月病など程遠い存在だった。




　"貴方は何処に居たいですか"
　『Cross+Rose』が問いかけます。回答は常に変更可能です。

　作り物の空に浮かぶCross+Roseのログイン画面は、厳然たる支配者であり続けていた。あれから二十時間以上の時を経てもなお、この世界全てを見通している。ワールドスワップが終わってハザマという場が消滅しても、Cross+Roseは残るのだろう──そんな空想すら浮んでくるほどに、それは強固な存在だった。
　ハザマとは、ワールドスワップ用に用意された戦闘用の空間である、と彼は認識していた。言うなれば体育館だ。競技者だけが集められ、あらゆる競技に対応が可能なフィールドで、四方を壁に囲まれている。

　Cross+Roseの問いに意味はない、と彼は認識していた。
　あんな問いに意味はない。何時でも何度でも変更が可能な回答にも、同じように意味はない──ただの悪意だ。人を惑わし、ワールドスワップを盛り上げるための悪意。アダムスとやらが、あるいはCross+Roseが施した、参加者を揺さぶり、思考リソースを削ぎ続ける最高の統治手段だ。意味のない問題に対し、誰もが悩み続けている。

　"貴方は何処に居たいですか"
　彼は答えたことがない。正確には、答えを変えたことがない。

　何処でもない。

　何処でもないとは、何処でもよいということだ。Cross+Roseの支配を逃れ、ワールドスワップの悪意の届かぬ場所でさえあれば。上司と二人、平和な南国にでも逃れられるのであれば──そんな場所は無く、逃げるわけにもいかないのだから、何処でもないが答えなのだ。
　強化された異能の《同人結社（ホールディングス》は、《有有有利有利有利》よりも明確に、何かの意志を伝えてくる。己の直感か、別の何かかは分からないが。囁き続ける異能を受け入れず、彼は答えを出し続ける。

ENo.564 PSY.B.峰子 とのやりとり


ENo.831 Dr.笹子 とのやりとり

ItemNo.29 バラのくんせいにく を使用しました！
　魔香のため、体調は回復しなかった。
　今回の全戦闘において 強撃10 が発揮されます。
　今回の結果でのスキル熟練度が伸びやすくなった！

武術LV を 1 UP！（LV38⇒39、-1CP）
変化LV を 2 UP！（LV35⇒37、-2CP）
響鳴LV を 2 UP！（LV35⇒37、-2CP）
合成LV を 5 UP！（LV75⇒80、-5CP）

ItemNo.11 硬質ワイヤー"ChainⅢ" に ItemNo.39 小判 を合成し、硬質ワイヤー"ChainⅢ" を強化しました！（+30）
　⇒ Which,Yes or No?！［ 6 3 3 = 12 ］不発！
　⇒ 硬質ワイヤー"ChainⅢ"／呪器：強さ816／［効果1］攻撃40 ［効果2］攻撃40 ［効果3］自滅38【射程3】

Dr.笹子(831) の持つ ItemNo.3 衣替え白衣 に ItemNo.42 すごい羽 を合成しようとしましたが、LVが足りないようです。
麺屋の龍人(1595) の持つ ItemNo.6 快適速乾Tシャツ（春の新作） に ItemNo.8 すごい羽 を合成しようとしましたが、LVが足りないようです。

Dr.笹子(831) により ItemNo.8 すごいお肉 から料理『すっっっごいお肉』をつくってもらいました！
　⇒ 美酒佳肴！［ 3 1 3 = 7 ］成功！料理の付加効果のLVが増加！
　⇒ 技巧料理！［ 6 4 5 = 15 ］成功！料理の強さが増加！
　⇒ すっっっごいお肉／料理：強さ654／［効果1］攻撃37 ［効果2］防御37 ［効果3］増幅37

Dr.笹子(831) により ItemNo.18 お肉 から料理『すごくないお肉』をつくってもらいました！
　⇒ 美酒佳肴！［ 4 1 4 = 9 ］成功！料理の付加効果のLVが増加！
　⇒ 技巧料理！［ 1 6 2 = 9 ］成功！料理の強さが増加！
　⇒ すごくないお肉／料理：強さ152／［効果1］攻撃13 ［効果2］防御13 ［効果3］増幅13

枢木(296) とカードを交換しました！

薬師ノ智 （ルミネセンス）


ヘカトンケイル を研究しました！（深度0⇒1）
ヘカトンケイル を研究しました！（深度1⇒2）
マッドストーン を研究しました！（深度0⇒1）

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

偽黒初(77) は 匂辛夷 を入手！
Dr.笹子(831) は 匂辛夷 を入手！
麺屋の龍人(1595) は 天青石 を入手！
Dr.笹子(831) は 朱の光焔 を入手！
偽黒初(77) は すごい羽 を入手！
偽黒初(77) は 永久雪 を入手！

ツクナミ区 O-9（道路）に移動！（体調21⇒20）
ツクナミ区 O-10（道路）に移動！（体調20⇒19）
ツクナミ区 O-11（森林）に移動！（体調19⇒18）
ツクナミ区 O-12（森林）に移動！（体調18⇒17）
ツクナミ区 O-13（山岳）に移動！（体調17⇒16）

［821 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［444 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［481 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［200 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［410 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［328 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［263 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［189 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［111 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［146 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［146 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［299 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［41 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［203 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［89 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［99 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［90 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［46 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［76 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［56 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［5 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［100 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［21 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト
［43 / 100］ ―― 《変な像》揺らぎ
［0 / 100］ ―― 《白い渦》不幸
［11 / 100］ ―― 《黒い渦》不運



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

Cross+Rose越しにどこかの様子を見ているエディアン。




　

　

　











いくつかの映像が映し出される。

　







　

不思議そうにするエディアンを見て、軽くため息をつく白南海。






　






　

　

　

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