［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

――そんなに急に、人は居なくならない。

さっきまで振り返ればそこに居て、
後ろにいたはずの風凪が、どこにもいない。

音もなく、声もなく、何の予兆も見せず消えたのだとしたら、
それは誰かが『消した』という他ないと、そう思った。



「――ファルカァ！！」

思わず、声を上げていた。
風凪の消滅が、名前を呼んだそいつの仕業であるとは限らなかったけれど、
それでも、そいつが何かを知っている予感が、俺にその名前を叫ばせた。

そんなに急に、人は居なくならない。

だとしたら、予兆はどこかにあったはずだ。
そしてその予兆が、彼女――全てを知る少女であるファルカなのだとしたら。
これ以上納得の行く原因はほかにない。

呼応するように空間が歪んで、
目の前にそいつは期待通り、期待に外れて現れてくれる。





「何でもかんでも、私のせいにされても困るよ若宮くん」
「んじゃ、なんで出てくんだよ」

ファルカ。
秋山ハルカを騙り、俺と風凪の過去について知っている――アンジニティ。
突然風凪が居なくなった理由がもし、彼女にあるのだとしたら。
――ファルカが持っている情報を、風凪に伝えた可能性が高いと思っていた。

ファルカ目的が、正確に何であるのかは俺にも分からない。
ただ、何らかの理由でこいつが
風凪と俺を破滅させようとしていることだけは、彼女の言葉ですでに分かっていた。

ファルカは空中で笑い、口元を袖で押さえた。

「呼ばれちゃったからね。
　そして、マナカちゃんがなんで居なくなったか、知ってるからかな」

その袖の下の口は、明らかに弧を描いていた。
やはり。こいつが一枚噛んでいる。
記憶の上書きが起こるハザマの時間の隙間を使って、
風凪と俺を分断させたのか。

「風凪をどこにやった」
「マナカちゃんに関することだと、
　人聞き本当に悪いよね、若宮くんって。
　別に何もしてないよ。
　ただ、マナカちゃん、センパイにはもう会いたくないって」

もう会いたくない。

「あいつが、自分の意思でいなくなったってのか？
　……そんな言葉を信じれるかよ」
「信じたくないからじゃない？
　でもおかしーよね、若宮くん。
　若宮くんだってそれを心のどこかで望んでいたし、
　望んでいたからあんな『IBALINE』を送ったんじゃないの？」

……俺が。
風凪との分かれの道を望んでいたかどうか。
言葉に、少しだけ詰まる。
その一瞬に、ファルカが言葉を滑り込ませてくる。


「……だからね？
　引き金を引いたのは、若宮くんだよ。
　もうこれで終わりだって、お別れだって、
　明確な線を引いたから、マナカちゃんも決めたんじゃないの？
　もう、自分はセンパイと一緒にはいられないって」
「だからって。
　だからってこっちの、ハザマの異常な状況で、
　あいつが単独行動するようなやつかよ！
　そこまで合理的に考えられねーやつじゃねーだろ！」
「……何にも分かってないね、若宮くん。
　マナカちゃんのことも。今の状況も」

それは、確かに憐みの目だった。
何も知らない子供を見るような目で、子供の外見をしたアンジニティが見下ろしてくる。


「――そんなんだからきっと」








「傍にいたはずの彼女の、何もかもが見えなかったし、
　今もずっと、見えないままなんだよ、若宮くんは」




今も、ずっと、見えないまま……？
何を言ってるんだ、こいつは。
それを言われ、責められるのは、
風凪の死の真実をずっと隠し続けてきた俺の方じゃないのか？

「……俺が風凪の、何が見えなかったって言うんだ」
「全部だよ。
　どれくらい見てあげたの？
　どれくらい知ってる？
　長い間一緒に居て、目の前にいる彼女のことを何も見てなかったから。
　今もそうやって見えないままなんじゃないの……？」





「でも、それも良かったのかもね。
　現実で若宮くんが送った別れの言葉。
　何も分からないまま送った区切りのセリフが、
　彼女がこの世界からサヨナラするきっかけになったんだから。
　何回も言うけど、引き金は若宮くんが引いたんだよ？」

ファルカは、薄く、小さく、笑う。

「一人で先に進んで、
　一人でやりたいことを選んで、
　一人で何もかも決めてしまって、
　居なくなって大騒ぎする若宮くんを見て、
　マナカちゃんが自分から居なくなるはずなんてない
　なんて言える若宮くんは、本当に子どもみたいだなって。
　どうしたかったの？
　若宮くんはどうなりたかったの？
　ずっと、彼女の傍に居て、彼女の何になりたかったのかな？」

心を抉るような。
そんな問いかけが、投げ掛けられる。

何度考えたか分からない。
何度悩んだか分からない。
全てが言い訳に聞こえて、全てが合理的にも思えた。
何もかもが詭弁に聞こえ、何もかもが仕方のないことに思えた。

でも俺は少なくとも。
どんなに中途半端な形になったとしても。
最初から、考えていたことはたった一つだ。


「俺の家は、真っ当な稼業じゃねえ。
　その血が流れてて、そのために血が流れることが必然なら、
　俺の人生は、いつどこで切り取っても汚れてる。
　だからあいつには、風凪マナカには真っ当に……
　真っすぐに、あいつなら掴める幸せを掴んでほしかったんだ」

俺とは別の道の先で。
あいつが、あいつの正当な生き方で掴めるだけの幸せを。
俺のせいで、俺の汚れで、それが汚されてしまわない場所で。

でもあいつは。
あいつは、俺からのその別れの言葉を聞いて。
何も言わず、この危機的な状況で一人になることを選んだ。
それどころか、ファルカ曰く『世界からサヨナラする』という。

何がそこまであいつを追い詰めていたのかは分からない。
それが俺の中途半端な気持ちと立場からつけた傷であるかどうかも、
今の俺には分からない。何も、何一つ。悔しいが、ファルカの言う通り。

「……俺がいつだって望んでたのは、あいつの幸せな人生だよ。
　風凪が真実に気付くことに怯えながら、
　風凪が俺に必要以上に近づくことも離れることも怖いまま。
　ただじっと、あいつがあいつが願う物になれるよう。
　あいつの意思で幸せになりたいと願ってくれることを
　俺もずっと願っていたから」

でも。

「でも、それが――それが違うって言うんなら。
　それが、俺の認識と違っていて、あいつが幸せにすらなりたくないなんて願っているなら。
　何もかもを終わらせたいと思っているなら。
　何をしたかったのか、どうなりたいのか、何でそう思うのか。
　俺は、あいつの口から――風凪マナカの口から聞きたい」


今、一番願うのは、それだ。
このままじゃ、本当に何もかも分からないままピリオドが打たれてしまう。

「だから俺は。
　風凪の口から別れの言葉を聞くまで――」





「俺は、お前の幸せを諦めたりしないって、伝えろよ。
　ファルカ」

俺の言葉に、ファルカは皮肉気に微笑んだ。

「そっか。
　それが、若宮くんの考えなんだね。
　心配しなくても『伝わっている』と思うよ？」
「……？」

伝わっている……？
俺の疑問をよそに、アンジニティの使者は小さく肩を竦めてみせた。

「その上で、どう返事をするかは分からないけどね」
「………」

どういうことだ。
風凪が、何らかの形で俺に伝える手段があるのか……？
待て。考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。

俺は、ファルカのことだって、
アンジニティのことだってハザマのことだって何もかも分からない。
その上で、考えろ。考えることをやめるな。
この一年、フルに使ってきた頭の細胞を、活性化させろ。

もしこの状況で。
ファルカが俺や風凪の破滅を願うなら。
それが、一番最高の形で、最悪の形で形成されるとしたら。

――どういう形の手段が最悪だ？

そう、俺が思った瞬間。



――確かに、声が聞こえた。




それは確かに、最悪の形であったし。
最悪のタイミングであったし。
これ以上ない――明確な言葉だった。


風凪マナカの声で。


耳元で、囁くように、それは聞こえた。







「――さようなら」






















































☆　　　★　　　☆　　　★　　　☆





「――さようなら」


別れの言葉。
ついにこの二年間、自分が言うことが出来なかった言葉だ。
そうするべきとか、そうあるべきとか。
何回だって言えるチャンスはあったけど、口にしなかった言葉。

だから、俺は知っていた。
俺が、風凪と袂を分かつとき。
それは、離れていく方の口から出る言葉であることを。

――俺は、知っていた。



二年間。
風凪マナカとの付き合いは、中学の頃から換算したら五年近くにもなる。



――だから、俺は知っていたんだ。

それは俺たちが離れていく別れの言葉であることも。




『それ（さよなら）を言えば、俺が『自分の意思で離れていく者』を追わなくなる』と、
『あいつが思っていること』を。

『それ（さよなら）を言えば、俺がそれでも二度と忘れないくらい、
　傷つくことを知っていてなお、その傷を残そうとすること』を。

『そいつがそれを最大限に誰かに突き刺すとき、
――『きっと耳元で囁くように言うこと』も。
















俺の右手は。

背後からそれを囁いた――

『見えない風凪』の『手』を、確かに掴んでいた。











絶対に、最後の瞬間。


『俺の見えない右側』から。
『後ろから囁く』と、確信があったから。









――この五年間の積み重ねは。

大切な存在である、彼女を。
こんな形で消えさせない。

――この瞬間のために存在していたんだ。









「……っ」





「――俺は、納得できねぇよ、風凪。
　……こんな、こんな終わり方なんてよ」

特に何もしませんでした。

武術LV を 5 UP！（LV37⇒42、-5CP）
合成LV を 5 UP！（LV5⇒10、-5CP）

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

『リュウジン区 C-17：チェックポイント《道の駅》』へ採集に向かうことにしました！
　　 - マナカ(507) の選択は リュウジン区 C-17：チェックポイント《道の駅》

MISSION!!
カミセイ区 S-13：チェックポイント《鰻屋》 を選択！
　　 - マナカ(507) の選択は カミセイ区 S-13：チェックポイント《鰻屋》

［821 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［448 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［490 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［196 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［408 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［323 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［249 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［181 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［104 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［146 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［145 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［287 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［40 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［181 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［80 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［97 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［73 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［45 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［66 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［55 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［1 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［62 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［0 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト
［20 / 100］ ―― 《変な像》揺らぎ



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

･･･夜空が見える。

　

　

　

どこからともなく無数の光の玉が空へと浮かび上がり、

真っ暗な空間を星々のように彩りはじめる。

　

　

　

少しずつ、少しずつ、

光が寄り添い集まっていくように見える。

チェックポイント。



再び現れる守護者。

　　




それは言葉を発すると共に襲いかかる！